文:マーク・シフ(コメディアン、俳優、作家)
1976年頃のマーク・シフ
「神が何を求めているか考えたことあるかい? キミのとりとめもない欲望を満たすための使いっ走りのガキだと思ってる?」----ボブ・ディラン
「お前はそれが歌だと思ってるの? そんなもんやめなさい」----オレのオフクロ
ボブ・ディラン。ミネソタ出身のユダヤ人。オレは50年以上、ノンストップでディランを聞き続けている。
1976年にオレはグリニッジヴィレッッジで金を恵んでもらいながら詩を書いて暮らしていた。詩人ぽいヒゲまで生やしていた。ある晩、ボトムラインていうロッククラブに生涯の友人{ダチ}、バーニー・フェレーラといると、3つ離れたテーブルにボブ・ディランと奥さんのサラ、ふたりの友人のルイ・ケンプがいた。
テーブルにあったメニューを掴んで、サインをもらいに向こうに行くと、ボブは快く応じてくれたので、オレはすかさず言った。「ショウが終わったら、オレのところに来てお茶でもどうですか? お友達も一緒に」 そんなことをしたのはその時が人生初だった。ボブから場所を訊かれたので、「ここから6ブロックです」と答えた。ボブは魂のレントゲン検査をするようにじっとオレを見ると、住所を書いてくれ、行くから、と言った。「本当?」と訊くと、ボブは頷いた。オレの頭は爆発した。
2時間のショウの最中、オレは自宅にディランが来るってことしか考えられなかった。ショウの後、オレたちはアパートに駆け戻った。そこは2人のルームメイトとシェアしていたのだが、戻ったらゲイのルームメイトがいて、オレがディランが来ることを話すと言った。「どうして電話しなかったんだよ。そうしてくれれば、ケーキを焼いてたのに」
1時間が経過したが、ディランは現れない。もしかしたら来ないのかもしれない。オレは夢を見てたのかもしれない。ディランは毎日、いろんな奴から、こっちに来てくれ、あっちに来てくれと誘われてるだろう。今晩だけ違うなんてことがどうしてあろうか? ところが、違ってたのだ。
ドアベルが鳴った。窓の外を見たら、3人が立っていた。オレはすぐに下に降りて行って、彼らを中に入れた。ディランのような尊敬してる人間が、約束を守ってくれたんだぜ。これってもの凄いことだろ。
4人で長い階段を登った。ボブ・ディランがオレん家{ち}にいるってことしか考えられなかった。サラとケンプは古いカウチに座り(オレがストリートで見つけたものだ)、ディランは小さな脚立に寄りかかって、指でそれをトントン叩いていた。ディランは自分に関する質問には何も答えず、オレのことを訊き続けた。「仕事は何をやってるの?」「詩を書くようになってどのくらいになるの?」 オレはディランにインタビューされたんだぜ。凄いだろ。 40分くらいして、ディランが「そろそろ帰るよ。またね」と言うと、3人はピューッと消えた。今となっては想像することしか出来ないのだが、オレたちが交わした会話はディランの人生で一番つまらないものだったんじゃないかなあ。オレには語るほどのものなんて何もなかった。でも、楽しかった。
数ヶ月後、あの時と同じクラブにいると、今度はジョン・レノンが歌手のマリア・マルダーと一緒にいたので、お茶を飲みに来ないかって誘ったのだが、丁重に断られた。ディランから話を聞いてたのかもな。
その20年後、安息日のことだった。シナゴーグでルイ・ケンプと名乗る男と会った。オレは「その名前聞いたことあるなあ」と言うのと同時に思い出した。「ルイ、あなたはボブとサラと一緒にグリニッジヴィレッジの私のアパートに来たことあるんですよ」 すると、ルイもあの晩のことを思い出して、とてもオープンだった時期のディランに会えたのはラッキーだったねと言った。その日以来、ケンプとオレは友達だ。
その数年後、ケンプとオレはディランのロサンゼルス公演を一緒に見に行った。会場に向かおうとしてると、ケンプは言った。「まずはジョニ・ミッチェルの家に寄って、彼女を拾わなきゃいけない」 凄えや。ジョニ宅に到着すると、彼女は、準備が出来るまでお茶でもいかがって言ってくれた。もちろん、ごちそうになった。
その後しばらくして、ヤング・イスラエル・オブ・センチュリー・シティーで孫のバル・ミツヴァ[ユダヤ教式の成人式]に参加するディランを見かけた。再び姿を見ることが出来て嬉しかったのだが、放っておいて欲しいオーラが出てたので声はかけなかったのだが、ボブ・ディランの姿を見れたことを神に感謝した。そして、お茶好きなことも神に感謝した。オレから皆さんに言いたいのは、「求めることを恐れるな。与えられるかもしれないんだから」
The original article "When Bob Dylan Came to My Apartment" by Mark Schiff
https://jewishjournal.com/commentary/columnist/308014/when-bob-dylan-came-to-my-apartment/