《Roots》裁判でジョン側について、悪徳業界人モーリス・レヴィと戦い(マフィアとの繋がりもあったらしい)、ジョンを勝利に導いた正義の弁護士の回想録です。ジョンとのつきあいは裁判を担当することになった1975年2月から最終的な判決が下った1977年1月までですが、自分の記憶だけでなく、ジョンが裁判所で行なった証言の公式的な記録や業務日誌に基づいて書いているので、「いつ」「どこで」という情報が充実。正確さと精度も高いと思います。普段から、裁判の書類を書いているからか、指示代名詞の使い方が曖昧でなく、非常に読みやすい文体です。
本物と偽物の区別法を指南するこの動画面白い。拙宅にあるのは偽物。
レヴィがAdam VIIIというTV通販会社から売り出した《Roots》には法律的正当性あると主張して、ジョンとキャピトル/EMIを訴えてきたので、ジョンらは被告だったのですが、それを返り討ちにしたのがこの裁判でした。ジョンが《Roots》の発売を承知していたのかどうかが主な争点でしたが、このレコードには正当性がないことを証明するプロセスで、法律云々、契約云々についての議論だけでなく、ジョンが収録曲を選んだ理由を述べたり、ジャケットの重要性を説明したり、レコーディングに参加したミュージシャンが証人として呼ばれたり、裁判所の中で皆でジョンのソロ・アルバムを聞いて、その音楽性を話し合ったりしているのです。裁判ではそんなことまで話題にするのかと驚くとともに、ジョンが自身のアーティストとしての哲学や自分の作品群の自己評価も語っているのはとても興味深いです。
私が面白いと感じたのは:
・1975年までグランド・セントラル・ステーションに行ったことがなかった。
・〈Bony Moronie〉は、母親が見に来た唯一のパフォーマンスで披露した思い出深い曲。
・《Two Virgins》のヌード写真は、自分は常に衆人環視の状態でプライバシーなど皆無であることと、服を脱いだら皆と同じ人間であることを示しており、このジャケットは誇りに思っている。
・《Roots》の裏ジャケットに別のアーティストのレコードの宣伝が載ってるなんて言語道断。
・ジョンはボブ・グルーエンに頼んで裁判の様子を盗撮してもらった(その写真あり----ピンボケだけど)。
----などなど、1ページに1つのペースで興味深いことが書いてあるのですが、一番笑ったのはジョンではなく、ローリング・ストーンズに関することです。
1976年1月、ジョン側の証人として、バーゲンがロサンゼルスからニューヨークに呼び寄せておいたジェシ・エド・デイヴィスは、2日後に裁判で証言するという超大切な仕事があるというのに、《Black And Blue》のレコーディングでニューヨークにいたロニー・ウッドからお誘いの電話がかかって来て、結局、2晩連続オールナイトで飲み(そういう人だったんですね)。プエルトリコ人売春婦2人と盛り上がって、ミック・ジャガーに電話し、朝方になって、女の子たちをホテルにお持ち帰り。それでもジェシ・エドは法廷で立派に証言を行ない、めでたしめでたしだったのですが、しばらくして、1978年にカーラジオから〈Miss You〉が流れてきた時、プエルトリコの女の子云々の箇所で、バーゲンは2年前のこの出来事を思い出したそうです。真夜中の迷惑電話を名曲に変えてしまうなんて、ミック、なかなかの詩人です。今後は「dyin' to meet you!」を聞くたびに、ジェシ・エドの姿が脳裏に浮かぶことになるでしょう。
数多くの回想録の例に漏れず、この本も自分に都合の良いことしか書いていないようです。バーゲンはジョンと知り合って間もない頃に、グランド・ファンク・レイルロードvs最初のマネージャー、テリー・ナイトの裁判をマネージャー側の弁護士として担当して勝訴したことを自慢しています(バンド側の弁護士はジョン・イーストマンでした。そうです、リンダ・マッカートニーのお兄さんです。今年の8月10日に死去)。確かに、金銭的に勝ったのは元マネージャーのほうですが、この記事のように、違った見方をする人もいます(バンドが本当の名声と名曲を獲得するのは敗訴後のことでした)。
また、最後の最後の著者紹介のページでは、ボブ・ディランvs最初のマネージャー、アルバート・グロスマンとの係争にグロスマン側の弁護士として関わったことにも触れていますが、詳細は皆無です。この係争は、ボブの旧友が有能な弁護士を紹介し(ボブのミネソタ時代の旧友、ルイ・ケンプの回想録『Dylan and Me』を参照のこと)、1960年代のままの契約条項のせいで袂を分かって久しいのに金が延々とグロスマンに流れ続けている状態をストップさせたことで知られています。結局、本格的な法廷闘争になる直前に、グロスマンがロンドンに行く飛行機の中で心臓発作で亡くなったために、適当な落としどころを見つけて和解となりましたが、こちらも話し合いのプロセスでボブの音楽を論じていたり、笑える逸話に満ちあふれているのだとしたら、その詳しい内容を知りたいところです。