《Fragments》にはこの他にも見逃せない写真があります。ブックレットp.76〜77のステージ写真を撮影したバリーが2月にフェイスブックで思い出を語ってくれました。
1998年にMSGザ・シアター5回連続公演の時にボブ・ディランを撮影した。正式筋から依頼されてもいたんだけど、ファンとして撮影した。フラッシュを使用しなければ大丈夫って言われてたんだが、翌晩、バロンと初めて言葉を交わすことになった。バロンはオレをボブキャットと呼び、カメラの中にあったフィルムは没収。カメラは預けさせられ、ショウの後、受け取りに来いと言われた。幸運なことに、そのやりとりの間に聞き逃したのは2曲ほどで、前の晩に撮影した分のフィルムは取られずに、会場を後にした。この連続公演の時の写真は1年間くらい(はるか昔のことだ)ボブ・ディランのオフィシャル・ウェブサイトで使われてたんだけど、今は、最新のアルバム《Fragments》のデラックス・バージョン(LP10枚組)のNo.4の裏だ。
まあ要するに、コンサートを撮影してたら警備の人に見つかってフィルムを没収されたという話なのですが、バロンというのはボブのボディーガードで、ステージ袖から客席を監視し、オッカケやカメラ小僧、テーパーには厳しいことでも知られています。ハワイ出身の強面の日系人で、1994年には格闘技雑誌『Black Belt』の表紙を飾っています。ボブと一緒に何度も日本にも来てるので、この顔、見たことあるでしょう。
1998年1月中旬のニューヨークは特別でした。1月14、16、17日はマディソン・スクエア・ガーデンのアリーナでローリング・ストーンズがコンサートを行ない、16、17、18、20、21日は、それに併設されているシアターでボブ・ディランとヴァン・モリソンがジョイント・コンサートを行なってたのです。こういうクレイジーな状況だったので、この1週間、ニューヨークには世界中からボブとヴァンとストーンズのファンが大集合しました。バリーも私も、こうしてニューヨークに引きつけられた人間のひとりでした(私は14日はストーンズ、16〜21日はボブ/ヴァンを見ました)。
私はコンサートの終演後にロビーでバリーと会って、この顛末を聞かされたのですが、彼はバロンにフィルムを渡す際、感光しないよう注意しながらカメラから取り出して、「良いショットが撮れてるだろうから、現像して、必要だったら使ってくれ」と言ったそうです。帽子に仕込んだマイクや腹に巻いてたマイク・アンプやDATレコーダーは見つからなかったものの、以上のやりとりは全部テープに記録されてるのだとか。バロンがフィルムをどうしたのかはわかりません。
今回リリースされた《Fragments》のCD4枚目の殆どのトラックが客席録音であることにも注目です。ブートレッグ・シリーズの回を重ねるごとに、ブックレットの最後の協力者クレジットの中には、業界人や有名ジャーナリストではない、私でも会うことが出来るレベルの一介のファンの名前がどんどん増えてきています。写真や音源の提供だけでなく、データの地道な分析や考証の点で、ファンの協力がなかったらブートレッグ・シリーズは出ない!というのは乱暴過ぎる言い方ですが、面白さの点では劣るものになってるでしょう。

Fragments - Time Out of Mind Sessions (1996-1997): The Bootleg Series Vol. 17 (5CD) - Bob Dylan

Bob Dylan: Retrospectrum - Dylan, Bob, Baitel, Shai

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