クログスガードの記事自体、発表から15年以上を経ており、新たに明らかになったデータも多数あり、修正が必要な箇所もあります。例えば、グリール・マーカスは『Like A Rolling Stone: Bob Dylan At The Crossroads』を執筆する際に「ライク・ア・ローリング・ストーン」のセッション・テープを全て聞き、実際にテープにされている内容がレコーディング・シートと異なることを発見しています。また、ザ・テレグラフの記事をもとに、セッションに参加したミュージシャンやスタジオのスタッフがさまざまな思い出話を語ったり、疑問を呈したりしています。1992年のブロンバーグ・セッションからは、数トラックが『Tell Tale Signs』でオフィシャル・リリースされました。『Bob Dylan's Columbia Studio Recordings』が完成した際には、現在までのこうした蓄積も反映されていることでしょう。
今回ここに掲載したインタビューの中で、私が特に面白いと感じたのは『Self Portrait』に関することです。
「Days Of '49」のように、基本的にはディランとブロンバーグだけで演奏し、後でアル・クーパーがベースとドラムとエレクトリック・ギター等をオーバーダブしたものもあります。セッションが進むにつれて、関与するミュージシャンもどんどん増えていって、最終的にはフルバンドにバックグラウンド・ヴォーカルまでプラスされるという状態になり、クーパーはそれにさらにストリングスや他のオーケストラの楽器を加えたのです。
アル・クーパーは、29年ぶりに発表する本格的ソロ・アルバム『ブラック・コーヒー』のプロモーションで2005年に来日した際、精力的にこなしたインタビューのひとつで、他の楽器を加え過ぎてボツになったテープが自宅スタジオから発見されたので、ディランのマネージメントに渡したということを語っていました。ということは、クーパーによるオーバーダブのないトラックも存在するのでしょうから、『Self Portrait』の「ストリップト」バージョンとやらが将来発表されないものかという妄想を抱いてしまいます。オフィシャル筋は『Street Legal』やゴスペル期のように発売当時に評判の良くなかったアルバムを再評価させるような再発活動をしていますが、あの『Self Portrait』をどう料理するのか、今から楽しみでなりません。
ロイヤル・フェスティヴァル・ホールのテープは、私がソニーのテープ庫にいる時に出てきました。面白いことに、これはディランの要請でレコーディングされているのです。費用もディランのギャラから差し引かれています。テープの箱に曲目は書いてありませんでしたし、箱の中に何のシートも入っていなかったので、テープを最初から最後まで聞かなければなりませんでした。ファイルに載っている2つのカーネギー・ホール公演(1963年と64年)と同じく、ディランはとてもよくしゃべり、おかしな話をしています。1964年のフェスティヴァル・ホール公演のテープでは、フォーク・ミュージックに関する長くて複雑でおかしな話をしています。
昨年、『Witmark Demos』と『モノボックス』購入者にプレゼントCDとして配布され、今年になって結局普通にリリースされた1963年ブランダイス大学公演も、聞いたことのない音源でビックリしましたが、1964年のロンドン・ロイヤル・フェスティヴァル・ホール公演も、ニュー・アルバムか何かのリリースの際に、プレゼントCDに収録してもらいたい音源です(『モダン・タイムズ』の時に少し噂になりましたが…)。2004年に出回ったファンタジー・アセテートに収録されていた出所不明のライヴ・バージョンの「Mr. Tambourine Man」「Eternal Circle」は、暫定的に1964年ロイヤル・フェスティヴァル・ホール公演となっていますが(Searching For A Gem参照)、クログスガードが聞いたのはこれと同じものだったのでしょうか、違うものだったのでしょうか? 私の頭の中は質問だらけです。


Krogsgaard.pdf
Original copyrighted article "The Bridge Interview: Michael Krogsgaard" by Terry Kelly from THE BRIDGE No. 27 SPRING 2007 . Reprinted by permission.