2012年12月22日

NY Rock'n'Roll Life【6】ヘルズ・エンジェルスにエンジェル・ダストを盛られたぜ

 このページ、私が面白いと思う記事を超マイペースでひっそりと紹介しているだけなので、殆ど訪れる人はいないのですが、時々何かの検索にはひっかかるようで、一番多いワードが何と「ヘルズ・エンジェルス」なのです。私はこのバイカー集団に詳しいわけではなく、日本国内でのバイクの免許すら持っていないくらい、乗り物には疎いです。ただ、ロックの話をしてると、どうしても彼等が出てくるんですよ。オルタモントであんな事件を起こしておきながら、ビル・グレアムやサンフランシスコ系のバンドとの親交が途切れなかったのはなぜ?というのが、私が昔から持っている疑問です。
 今回はビンキーがカントリー・シンガー、ウェイロン・ジェニングスのボトムライン公演で、エンジェルスに遭遇した話です。以前に紹介した記事の中にも、エンジェルスのメンバーがビル・グレアムに雇われてフィルモア・イーストで警備を担当していたという話が出てきました。
 ところで、ボトムラインというと、ニューヨークの西4丁目にあった老舗のライブハウスで、数多くのミュージシャンによって伝説的名演が繰り広げられた会場すが、しばらく前に惜しまれつつもなくなってしまいました。在りし日のボトムラインの入り口はこんな感じでした。

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 私はここに2回しか行ったことありません。2003年3月にリンゴ・スターの『RINGORAMA』発売記念シークレット・ギグを、同年8月にヨーマ・コーコネンのアコースティック・コンサートを見ただけです。基本的には、テーブルについて軽食を食べながらライヴを楽しむ形式の会場でした。ニューヨークも再開発が進んで、レコード屋は殆ど壊滅状態。ライブハウスもどんどんなくなってきています。CBGBも今はもうありません。私は行ったことありませんが、行ったことのある人の話では、CBGBのうしろの暗いところではドラッグをキメてる奴がいたり、男女がセックスしてたり、ちょっとどころではなく怖い会場だったそうです。
 そろそろ本題に入りましょうか(下の「記事本文を読む」をクリック)。

  





 ビンキー・フィリップスのニューヨーク・ロックンロール・ライフ
第6回:ヘルズ・エンジェルスにエンジェル・ダストを盛られたぜ
文:ビンキー・フィリップス




 1974年9月半ばのことだ。ボトム・ラインで行なわれるウェイロン・ジェニングスのコンサートで友人と会う予定だった。オレはニューヨーカーだが、カントリーがクールなもの扱いされるようになる前からカントリーが大好きだった。それはひとえにバック・オーウェンのリード・ギタリスト、ドン・リッチのせいだ。『Hee Haw』というテレビ・シリーズの第1シーズンが始まった頃だから、1969年のことだ。オレは生まれてこの方、あんなふうにギターを弾くのを見たことも聞いたこともなかった。1966年のクリスマスに両親からプレゼントされたものと同じよようなテレキャスターを、ドンは使っていた。ドンを知ったのと同じ年には、タミー・ワイネットにも夢中になった。彼女は今でも大好きな女性ヴォーカリストだ。あの顔、あの声、最高!





 その時、オレはウェイロンのギグに向いている服は着ていなかった。オレはレッド・ツェッペリンとニューヨーク・ドールズをミックスさせたような、ニューヨーク・シティーとイギリスのグラムを合わせたような服を仕立てて着ていた時期だった。服装倒錯ってわけではなかったが、それに近かったな。
 オレのブログの読者なら、ボトム・ラインについては耳にしたことくらいはあるだろう。ボトム・ラインとはニューヨーク・シティーにあるライヴ・スポットで、ブルース・スプリングスティーンやビリー・ジョエル、ダイアー・ストレイツ、トム・ウェイツ、その他大勢のスターがここからスタートしたという、ニューヨーク・シティーの音楽の歴史において超重要な会場なのだ。
 今回の話を十分に味わってもらうためには、この会場の説明をしといたほうがいいだろう。ボトム・ライン内部は奥行きよりも横幅のほうがはるかにあった。奥行40フィート×幅100フィートといったところだろうか。席は約500。ステージの高さは約4フィート。テーブルは全てファミリー・スタイルのレストランみたいにセットされていた。ステージに対して垂直にいくつものテーブルが並び、1つのテーブルには、場所によって差はあったが、むこう側とこっち側に6〜10脚ずつ椅子があった。小さな12人用のテーブルが前方にあり、通路がクラブの中央をステージと平行して突っ切っていて、その後ろには長い18〜20人用のテーブルが置かれていた。
 理由は思い出すことが出来ないんだけど、オレはウェイロンのギグに少し遅刻した。席を確保しといてくれるはずの友人が見つからないうちに、照明は暗くなっていった。ようやく見つけた連中は前の方にいたが、オレの席はなかった。皆、すまなさそうに肩をすぼめて、「席を取っておこうと頑張ったんだけど、会場側からダメって言われちゃったんだよ」と言った。融通のきかない連中がこのクラブを切り盛りしていて、ウェイトレスはさらにタフだった。会場は端から端まで満員だった。ウェイロンのバンドがステージ上に出て来たので、オレは焦った。客電は既に消えている。
 突然、映画のタクシーを呼び止めるシーンのような、大きく耳に突き刺さる口笛が、オレの真後ろから聞こえた。振り向いて分かったのだが、オレはヘルズ・エンジェルスのメンバーと4、5人のママ(メンバーの奥さんや彼女)でいっぱいになった20人用のテーブルの前に立っていたのだ。
 エンジェルスのメンバーは全員サングラスをかけていた。たいていはミラー・サングラスだった。オレはペコペコ、視界を邪魔してごめんなさいのジェスチャーをして、急いで立ち退き始めたが、さっき口笛を吹いたメンバーが、この20人用のテーブルの一番後ろにある唯一真っすぐステージの方向に向いている椅子に座っていて、クラブで空いてる席は自分の隣のここしかないというジェスチャーをした。「こっちへ来いよ」手を振って、ここ空いてるぜという合図をさらに送ってくる。
 オレは息が詰まった。丁寧に「ありがたいんですけど、結構です」という意味のジェスチャーをしたところ、そいつはサングラスをけだるそうに長髪の頭のてっぺんまで持ち上げ、オレに目を見せた。うわぁ、こいつ、サメのような目をしている。エンジェルスのメンバーは、再度、空いてる席があるというジェスチャーをしたが、オレにはもはや、それが「ここに座れ」という命令にしか見えなかった。
 オレは一瞬ためらったが、選択の余地はないと思い、ゆっくりと後ろの空席を目指し始めた。他のエンジェルズのメンバーは椅子を引いてオレを通してくれたが、皆、ムカついて「何だこいつ」という表情をしていた。
 オレを呼んだメンバーはエンジェルスの頭カシラに違いない。手を上げただけで、他の連中全員がちょっと下がってくれたからだ。しかし、オレがこいつの隣に座る時も、連中はオレをにらみ続けていた。テーブルの反対側にはママのひとりが座っていたが、彼女は超美人で、シンディー・クローフォードとテリー・ハッチャーを足して2で割ったような感じだった。今でも超美形の顔をはっきりと覚えている。目が合うと、彼女はオレにほほ笑んでくれた。オレも彼女にほほ笑んだ。しかし、彼女の隣に座っていたボーイフレンドは、このささやかなやりとりを見ると、身を乗り出して、うなり声を上げた:「てめえ、何見てんだよ」 。オレが「ご、ごめんなさい」と言うと、ママは肩をすぼめ、その後は、オレを無視しといたほうが双方のためだと思ってくれたようだ。オレは呼吸が止まるかと思った。
 ウェイロンは最初の曲を歌い始めいた。バンドは超ゴキゲンな音を出していた。ブルースのようにルーズで、いい具合だ! ウェイロンは屈託なくウルトラ・マッチョなカリスマのオーラを発していた。オレの隣のエンジェルスの頭カシラは、ジョイントに火をつけると、ひと吹かしして、他のメンバーを差し置いてオレに回してきた。オレは「ありがたいんだけど、そのぉ…」というジェスチャーをしたが、頭カシラはオレの鼻の下にジョイントを持って来た。これはもはや命令だ。オレはそれを受け取ると、あなたの気分を害するつもりなんてこれっぽっちもありませんということを態度で示すために、少し大袈裟にすぅ〜っと深く吸い込み、ママと少し視線を交わしたというだけでオレに殺意を抱いた奴に渡した。
 息を止めている時、ノドから肺までが冷たくなっているのが分かった。メンソールのニューポートかクールを吸った時のように…。何てこった。オレはヘルズ・エンジェルスにエンジェル・ダストを盛られたのだ(このダジャレ、意図して言ったのではない)。これは何度かやったことはあるが、しばらく前に一切やめた邪悪なドラッグだ。実際、4年前にメトロポリタン・オペラ・ハウスでピート・タウンゼントのギターをゲットした日以来、エンジェルダストはやっていなかった。
 30秒もしないうちに、ウェイロンと彼のバンドは1マイル先に遠のき、2次元のようになってしまった。オレの視覚はすっかり萎えてしまった。エンジェル・ダストをやったことがある人なら、オレの言ってることは分かるだろう。オレは地球から切り離されたような気持ちになり、完全に落ち込んでしまった。テーブルを見回すと、エンジェルスのメンバーの少なくとも4人はステージを見ず、威嚇するようにオレを見ている。エンジェルスのビッグ・ボスを見たら、こいつも同じようにオレを見ている。
 オレが(超慎重に)立ち上がると、頭カシラは言った:「どこに行くんだ?」
 「オシッコ。すぐに戻るよ」
 オレは体を小さくしながら他のメンバーの前を通り、よろよろしながらボトム・ラインの外に出てしまったが、1曲だけ聞いたウェイロンの歌はとても良かった…と思う。


Copyrighted article "Hell's Angels Dose Me With Angel Dust at a Waylon Jennings Show" by Binky Philips
http://www.huffingtonpost.com/binky-philips/hells-angels-dose-me-with_b_707500.html
Reprinted by permission
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posted by Saved at 23:41| Comment(0) | TrackBack(0) | Country Music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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