2013年08月24日

《Another Self Portrait》解体 (その1)

 しばらく前にこのブログに、1990年代前半にニューヨークにあるソニーのテープ庫でボブの音源を調査し、その結果をTHE TELEGRAPH誌、THE BRIDGE誌で発表したマイケル・クログスガード(←正確な読み方をご存じの方、教えてください。マイケルは英語読みですし、デンマークの哲学者Kierkegaardがキルケゴールなので、この読み方で呼んでも振り向いてもらえる可能性は低いでしょう)のインタビューを掲載しました。

完成が楽しみな究極のディラン研究本『Bob Dylan's Columbia Studio Recordings』
http://heartofmine.seesaa.net/article/198162832.html

 《Self Portrait》の多くのトラックは、最初はデヴィッド・ブロンバーグら、小人数のミュージシャンとレコーディングしたものに、たくさんのオーバーダブが加えられて出来たものだ、なんてことをマイケルが語っているので、衣を脱いだオリジナルのバージョンを聞いてみたいなあと思ってたところ、今回《Another Self Portrait》(以下《ASP》)で実現しました! しかし、万歳と思ったのは最初の2回くらいでしょうか。

  

 THE TELEGRAPH誌に掲載されたテープ庫調査記録は、こうしたリリースが出るたびに熟読吟味し、他の資料と比較検討しており、今回も同様です。《ASP》はベースメント期から《New Morning》《Dylan》《Greatest Hits Vol.2》まで、1967〜71年の音源を収録していますが、トラックが時系列を無視してゴチャゴチャに並んでいるので、資料とにらめっこしながら聞かないと、私の粗末な脳みそでは、時間や順番の点で誤解が生じてしまいます。最初に通して聞いた時には、〈Only A Hobo〉《Self Portrait》セッションで録音された〈Spanish Is The Loving Tongue〉〈Railroad Bill〉と同時期のものいう印象を持ってしまい、資料を見たら、実はバングラデッシュのコンサートよりも後に録音されたものだったとわかり、整理の必要ありと感じた次第です。
 ところで、《Self Portrait》はカバー曲や珍曲、のほほんバージョンの〈Like A Rolling Stone〉、それに、ボブが歌ってすらいない曲など雑多な音源が入ってて、散漫な印象を持たれていた迷作扱いの作品ですが、実は、ベースメント・テープス期に行なってた自分のルーツ再訪をその後もしばらく続けていたのだと読み替えさせるのが、今回の《ASP》の狙いのようです。
 そもそも、ベースメント・テープスがアメリカのルーツ・ミュージック、アメリカーナに結び付けられて語られるようになったのは、1986年にリリースされたLP4枚組の海賊盤《The Basement Tapes Volume One》《The Basement Tapes Volume Two》に知らない曲ばかり入っていて、それ何?ということで調査研究が進んでからのことです。そして、この潮流を決定的なものにしたのが、1997年にリリースされたハリー・スミス編《Anthology Of American Folk Music》CD6枚組ボックスセットと、翌年に発売されたグリール・マーカスの名著『Invisible Republic』(現在では『The Old, Weird America: The World of Bob Dylan's Basement Tapes』というタイトル)です。

  

 深い知識と洞察力で我々音楽ファンのオピニオン・リーダーとなっているグリール・マーカスでさえ、《Self Portrait》が出た当時の感想は「なんだ、このクソは?」でした。このレビューは確かに酷評もしてますが、それよりも、あのアルバムの真意を理解しよう、何らかの意味付けをしようとして大変な努力をしている力作だと思います。その彼が今回、評を書き直しているというので見物です。『Invisible Republic』を含む、今までの40年の後知恵の集大成だとは思いますが…。
 さて、そろそろ本題に入ろうと思ったのですが、この記事は長くなるので、今日は《ASP》収録曲を古い順に並べただけで終わります。残りは後日ゆっくりと発表します。

1967年 West Saugerties
D1-09 Minstrel Boy

1969年2月14日 Nashville
D2-06 Country Pie

1969年2月16日 Nashiville
D1-10 I Threw It Away

1969年8月31日 Isle Of Wight
D2-07 I'll Be Your Baby Tonight
D2-08 Highway 61 Revisited

1970年3月3日 NYC
D1-03 Pretty Saro
D1-02 Little Sadie
D1-01 Went To See The Gypsy
D1-15 In Search Of Little Sadie
D2-16 Belle Isle
D2-09 Copper Kettle
D1-14 These Hands
D1-05 Spanish Is The Loving Tongue

1970年3月4日 NYC
D1-12 Thirsty Boots
D2-12 Tattle O'Day
D1-11 Railroad Bill
D1-16 House Carpenter
D1-13 This Evening So Soon
D2-04 Days Of '49
D1-06 Annie's Going To Sing Her Song
D2-03 Wigwam

1970年3月5日 NYC
D1-04 Alberta #3
D1-17 All The Tired Horses

1970年5月1日 NYC
D2-11 Sign On The Window
D1-07 Time Passes Slowly #1
D2-05 Working On A Guru

1970年6月2日 NYC
D2-01 If Not For You
D2-17 Time Passes Slowly #2

1970年6月4日 NYC
D2-10 Bring Me A Little Water
D2-14 New Morning

1970年6月5日 NYC
D2-13 If Dogs Run Free
D2-15 Went To See The Gypsy

1971年3月16〜19日 NYC
D2-18 When I Paint My Masterpiece

1971年9月7日 NYC
D1-08 Only A Hobo

1971年11月4日 NYC
D2-12 Wallflower


 1968〜69年頃のボブの暮らしぶりとワイト島フェスティヴァルの様子、ナッシュヴィルのスタジオから流出していた《Nashville Skyline》のマスターテープについては、以下の過去記事でどうぞ:

 

【ISIS Selection 04】ウッドストックからワイト島へ

by アル・アロノヴィッツ
forkN

 

【ISIS Selection 07】 ロスト・ウェアハウス・テープの謎

by デレク・バーカー
forkN

 《Self Portrait》《New Morning》を録音した頃、ボブはウッドストックではなくてニューヨークのグリニッジヴィレッジで暮らしていたのですが、それを知ったA・J・ウェバマンという人物によって、1970年秋から約1年間、ゴミ箱を漁られるようになりました。《ASP》のブックレットではこの件はスルーだと思いますので、このアルバムの裏で起こっていたことの資料として、こんな記事はいかがでしょう。

映画『The Ballad Of A.J. Weberman』DVD発売記念 A・J・ウェバマン・インタビュー
http://heartofmine.seesaa.net/article/189116988.html
posted by Saved at 17:43| Comment(0) | TrackBack(0) | Bob Dylan | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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