2013年08月29日

《Another Self Portrait》解体 (その4) ワイト島

 あまり評価の高くないアルバムをリミックスして音質を向上させて「そんなに悪くないねぇ」と再評価させる試みは《Street Legal》でも行なわれましたが、ワイト島に関しても同様の面があると思います。1970年代に出回っていたものは音質の悪いオーディエンス録音でした。オフィシャルでは《Self Portrait》〈She Belongs To Me〉〈Like A Rolling Stone〉〈The Mighty Quinn〉〈Minstrel Boy〉の4曲が収録されただけです(日本ではこの4曲をまとめたコンパクト盤が発売)。ディラン本が出るたびに「がっかり」「期待はずれ」という当時のコンサート評が繰り返され、《SP》で聞くことの出来る毒が抜けちゃったのんびりバージョンの〈Like A Rolling Stone〉が、長い間、この評を裏付けていました。しかも、《SP》自体、そんなに聞かれるアルバムではありません。

【日本で発売されたコンパクト盤。欲しい】

iow.jpg


【1970年代にリリースされたTMOQ盤の百花繚乱】

w1.jpgw3.jpgw4.jpgw5.jpgw6.jpgw7.jpgw8.jpgw9.jpgw10.jpgw11.jpgw12.jpgw13.jpg

 1970年代前半にはこんなにリリースされていたワイト島も(拙宅にあるものは黒盤でした。カラー盤が集まると壮観だろうなあ)、音質が悪くて売れないのか、しばらくするとブートレッグ業界からも見放されてしまい、1980年代半ばにリリースされた《Belle Isle》《Island Man》までは特に新タイトルは出なかったと思います。《Island Man》は、かなり音質の向上したオーディエンス録音(ステージ近くのVIPエリアでジャーナリストが録音したものらしいです)と《SP》の4トラックを組み合わせた内容でしたが、どう考えてもジャケットに難があります(トホホ…)。

【《Belle Isle》と《Island Man》】

belle.jpgIsland.jpg

 CDブートレッグ時代になるとボブ専門レーベルWanted Manから《Isle Of Wight》がリリースされましたが、音質は《Island Man》と似たり寄ったり。〈I Dreamed I Saw St. Augustine〉《Island Man》のほうが良い音源を使っていたと思います。そして、コンサート自体の評価は変わらないまま21世紀に突入し、《ASP》デラックス・バージョンの発売に至ります。今回初めて気づいたのですが、グリン・ジョンズが録音にかかわっていたんですね。《SP》の見開きジャケットの内側の左下にも「Glynn Johns」というクレジットがありました。グリン・ジョンズと一緒にエンジニアとしてEliot Mazurという人物がクレジットされているのですが、正しい綴りはElliot Mazerのようです(誤植? ついでにAugust 30というのも誤植)また、本にはピンク・フロイドの《Ummagumma》やザ・フーの《Live At Leeds》で有名なパイ・モバイル・トラックでレコーディングされたとも記されています。ついでに、ワイト島コンサートを収めたディスクにはTMOQのぶたマークと「TRADE MARK OF EQUALITY」の文字が!

PT370129.JPG


 ショウの中身に関しては、苦労して現地に行って、「2時間に及ぶ演奏」「最後はオールスターのジャムセッション」といった流言を信じながら長時間待ってた人(ボブの出演予定時間になっても、機材トラブルのためにザ・バンドの単独セットが始まっていなかった)は、さぞかしガッカリだったでしょうが、《Island Man》以降の音質まあまあのブートレッグを聞いただけの私は、決してベストの演奏ではないが楽しいショウではないか、言われてるほど悪くないではないか、という印象で、《ASP》を聞いた後も基本的な意見は変わりません。ただ、《ASP》DISC-3ではMCやザ・バンドのメンバーへの指示が生々しく入っていて面白いです。例えば〈She Belongs To Me〉2:31で聞こえる「one more time」という指示(《SP》のほうでは聞こえません)、2曲目の〈I Threw It All Away〉が始まる前に機嫌良さそうに3回も繰り返す「great to be here」、〈Lay Lady Lay〉の前にリズムが定まった時に発する「yeah」等は、聞こえてきただけで嬉しいですよ。〈The Mighty Quinn〉前の「We're gonna do one more for you here. This was a big hit over here, i believe, by, ah, Manfred Mann」(←このこと、知ってたんだ!)というMCによって、この曲が当日のメインセットの最後の曲だったことが、音によっても確認することが出来ます。このMCは《SP》には収録されておらず、《SP》のトラックをパクった《Island Man》等のブートレッグにも、当然、入ってませんでした。最後の〈Rainy Day Women #12&35〉の冒頭では、ボブがメンバーにキーを指示する様子が入っています。昔のブートレッグでは、ロビーが当初の打ち合わせ通りのキーで弾き始めた(と思しき)音が唐突に入ってるのみです。「バイクに乗っていると石を投げられる」「マイクに向かって歌っていると石を投げられる」という3年前の出来事を歌ってると思しき歌詞も、あらためて爆笑です。



 今回の《ASP》の主なテーマはあくまで《SP》と《NM》であり、残念ながらワイト島はオマケ。本には詳しい話は載ってないので、資料としてクリス・オーデル『ミス・オーデル』、アル・アロノヴィッツ『ウッドストックからワイト島へ』をどうぞ。

 

【ISIS Selection 04】ウッドストックからワイト島へ

by アル・アロノヴィッツ
forkN

 次回こそ、本題である《Self Portrait》のレコーディングに入ります。のんびりお待ちを。
posted by Saved at 15:47| Comment(0) | TrackBack(0) | Bob Dylan | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック