当時リリースした最新盤《Tales From The Mothership》から始まって、インタビュー後半は昔のB級SF映画で盛り上がっています。ポール・カントナーはジェファーソン・スターシップの音楽を「サイエンス・フィクション・ロック」と定義していますが、コンピューター・グラフィックなど存在していなかった1950年代に作られたこれらの映画が、彼の原点なのかもしれません。
インタビューの最後に、少しだけ新プロジェクトの話をしているのですが、昨年末にリリースされた下のアルバムがそれなのでしょうか?
ポール・カントナー B級SF映画を語る
聞き手:マイク・ラゴーニャ
●ポール、ロズウェルでコンサートをやったそうですが、ニュー・アルバムのタイトルが《Tales From The Mothership》ということで、何やら関係がありそうです。ロズウェルは多くの「宇宙人」伝説や陰謀論の中心地です。ロズウェルにはあなたと共鳴するような特別な物が存在するのですか?
特にないよ。ロズウェルは未知なるもののスピリットで、この場所を取り巻く状況のおかげで特別なものになっている。オレ達がロズウェルでプレイすることにしたのは、SFつながりってことからだ。〈Crown Of Creation〉は、オレが思いつく限りでは、オレが初めて作った空想科学ソングだ。当時、フルトン・ストリートのオレ達の家(ジェファーソン・エアプレイン・ハウス)にいた時、1968年の民主党大会関係者から電話がきたんだ。民主党は今でも大会開催中に有名なミュージシャンを呼んだりしてるだろ。連中が言うには、オレ達に曲を作ってもらいたいとのことだった。オレはジョン・ウィンダムの『さなぎ』っていう本を読みながら、ヨーマ・コーコネンから盗んだちょっとしたブルースのフレーズを弾いていた。その時、ちょっとしたシャッフルが生じたのさ。この本の中から歌詞になりそうなフレーズがたくさん飛び出して来て、それが〈Crown Of Creation〉の歌詞の大部分になったんだ。オレはこの曲を冗談で作っただけなんだ。連中が歌詞を読んだら、絶対に使われることはないだろうと思いながらね。オレはずっと、政治家と面と向かって話すほど政治に関心のある人間じゃないし、バンドもカントリー・ジョー&ザ・フィッシュのバリー・ミルトンがサンフランシスコの判事か何かに立候補するなんていう冗談でみたいな出来事があった時に応援コンサートをしたのを除くと、政治的なベネフィット・ショウはやったことがない。とにかく〈Crown Of Creation〉を民主党に送ったところ、連中の名誉のために言うと、誰かが歌詞を読んで、民主党が大会で主張したいこととは違うと判断して、党としても却下したんだよ。でも、後になって、この曲はオレ達の最大のヒット曲のひとつになったんだよな。
●あなたのソロ・アルバム《Blows Against The Empire》にはたくさんのミュージシャンが参加しています。“ジェファーソン・スターシップ”という言葉を使っていますが、エアプレインの時よりもヴィジョンが大きいことをそれとなく表していたのでしょうか?
そんなつもりはなかったけど、実際には君の言う通りの状況だったね。オレがスタジオに入ってアルバムを作っていると、他のバンドやミュージシャンも同じスタジオにいて、様子をうかがいに互いの部屋を行き来して、互いの曲に参加したり、誰かがオレ達の曲に参加することもあった。そんな具合だったんだ。あのアルバムにあれだけ大勢の人が参加しているのは、こういうわけなのさ。
●昔から今までに、またこうしたメディア・イベントをやる寸前まで至ったことはないのですか?
あるよ。みんながオレに同じようなことをやらせたがるんだけど、その気にさせてくれるようなものには出くわさないんだよね。ライヴの時には、今でもなお、あのアルバムからはたくさんの曲を披露してるよ。《Tales From The Mothership》にもたくさん入っているだろ。
●《Tales From The Mothership》は他と比べて特別なパフォーマンスのひとつだと感じているのですか?
うまくいったパフォーマンスのひとつではあるね。ピート・シアーズからバリー・スレスまで、ゲストもたくさんいて、とても面白い具合に仕上がった。ロズウェルで行なわれたフェスティヴァルのために演奏した日には、街でちょっとしたパレードがあったんだ。パレードはどこからともなく現れて、しかも、ああいう小さな街だから、祭りには神秘的なオーラが漂っていた。オレ達はそれを大いに利用させてもらったよ。
●ロズウェルでお土産を買って持ち帰りましたか?
いや。そんなにたくさんは買わなかったな。安っぽいものしかなかったしさ。持って帰ったものといえば、このアルバムくらいのものかな。
●今回のアルバムでは、伝説のフォーク・アーティスト、ジャック・テイラーもフィーチャーされていますよね。
そう。フォーク時代から活躍しているミュージシャンで、こういう言葉は使いたくはないんだけど、オレの指導教官みたいな存在だった。あらゆる種類のギター・フレーズや、スパニッシュ・ギターの演奏法、種々のコードをオレに教えてくれた。それに、オレに12弦ギターを教えてくれたのもジャックだ。12弦ギターはいわばオレの武器になった。今でもなお、もっぱら使ってるのはリッケンバッカーの12弦だけど、ギルドの12弦アコースティックも2本、マーティンの12弦アコースティックも2本持っていて、これも時々弾いている。
●このプロジェクトのトラック・リストは全時代を網羅していますね。スターシップ時代やエアプレイン時代を思い返して、ここが自分の黄金期だったなあと思うある特定の期間というのはありますか?
あまりないね。「あなたのお子さん達のうち、誰を一番愛していますか?」っていう質問と同じようなものだよ。
●その通りですね。すみません。この質問には他意はないのですが…。
それぞれの期間にはそれぞれの特質がある。それは互いに全く異なるものだ。だから《Tales From The Mothership》は、1年1年の素晴らしい瞬間から成る作品の体系を皆に示すことの出来るよう、しっかり機能を果たしている。
●私個人の意見なのですが、ジェファーソン・スターシップの作品はジェファーソン・エアプレインに決して劣ってないと思います。《Dragonfly》《Red Octopus》は大好きですし、音楽的要素やアレンジの点で皆さんがやっていることも気に入っています。加えて、作品ひとつひとつのパッケージ・デザインに古典的四大元素を使っています。
あのシリーズをトンボで始めた時に、あのたぐいのものが偶然出て来たんだよ。あれは「大気、飛行」だ。次に赤いタコが登場した。これは「水」だ。次に《Earth》つまり「地」、次に《Spitfire》、これは「火」だ。四大元素の組み合わせになったのは、殆ど偶然なんだ。
●あなたは長年に渡ってバンドのリーダーを務めています。現在のバンド・メンバーは2009年のツアー・バンドと基本的には同じですよね?
そうだ。キャシー・リチャードソンはこの5年くらいリード・シンガーを務めてくれている。彼女が素晴らしい声で貢献してくれるおかげで、バンドはとても活性化した。キャシーとデヴィッド・フライバーグ、クリス・スミス、スリック・アギラーが最近のレギュラー・メンバーで、ドニー・ボールドウィンがドラマーだ。時々、プレイリー・プリンスがドラムを担当することもあって、来月のヨーロッパ・ツアーには彼が同行する。このバンドは人間の素敵な集合体になってるよ。
●プレイリー・プリンスが参加しているのはいいですね。私はチューブスの大ファンなので。
ああ。あいつは誰とプレイしてもいいね。
●トラック・リストの話をしましょう。カバー曲の選び方にはビックリです。皆さんのやることなので、良い演奏であることにはビックリしませんが、心の琴線に触れる演奏です。ディランの〈Chimes of Freedom〉も入っていますし、ウディー・ガスリーの曲をカバーし、ピンク・フロイドやデヴィッド・ボウイの曲も演奏していて、知的に面白いコンビネーションが出来上がっています。
オレは今までずっと、ある意味そのために非難されてきたんだけどな。
●SFというテーマに戻りましょうか。お気に入りのSF映画は何ですか?
もう10年くらい映画を見ていないんだ。映画はオレの頭からはすっぽり抜けてしまっていて、もっぱら本を読むことのほうに戻っている。概して、映画より読書のほうがはるかに良いと思うよ。映画には何かと肉付けが多いし、本を読む方がもっと想像力を使うからね。面白いという思う映画が登場したら、オレは本を買いに行く。99%、映画より本のほうがいいね。本が特に優れているのは、登場人物が内なる自分と会話をするシーンを描写する力だ。映画の中でこれをやるのは難しくて、うまくいくことは殆どない。でも、本がだと、自分の目の前にある本の中に、映画では得ることの出来ない意識や感情を得ることが出来る。でも、1960年代には、毎週土曜日の朝には、『大アマゾンの半魚人』から『禁断の惑星』まで、初期の白黒映画を片っ端からチェックした。オレは小説を書いたこともあるんだ。小説にオレ好みのフィーリングを与えるために、『禁断の惑星』のシーンをいくつか使ったよ。
●あの時代の映画で私が好きなのは、少し安っぽいかもしれませんが、『惑星アドベンチャー/スペース・モンスター襲来!』です。
あの作品はあまり覚えてないな。『月世界征服』のほうが夢中になって見たと思う。あれはオレが8歳か9歳の時に最初に見た映画だが、こっちも安っぽかったよ。でも、8歳か9歳の時だったから、最高の冒険映画だと思ったよ。オレはそこから徐々に階段を昇っていったのさ。そして、あらゆる古典的な作家の作品を読むようになったんだ。ハインラインからは影響を受けた。アジモフからも、そして後にはレイ・ブラッドリからも。SF小説に関しては、こうした作家から大きな刺激を受けたね。
●私もレイ・ブラッドベリは大好きです。彼が亡くなる前には、インタビューしたいなと思っていました。
そう。彼は大流行したね。
●他にもいくつかタイトルを挙げたいのですが、『遊星よりの物体X』もいいですね。一般的にはホラー扱いされていますが、SFの傑作だとも思いますよ。
ああ。オリジナルのほうの『遊星よりの物体X』はそうだね。オレも好きだよ。
●一番ぞっとするところは、医師が植物のひとつに聴診器を当てると、脈拍が聞こえてくるシーンです。今でもなお、考えただけ鳥肌が立ちます。それから、『宇宙水爆戦』もステキなB級作品ですね。
『宇宙水爆戦』も本当に楽しい作品だ。巨大ロボットが出て来るのは何だったっけ? 『地球が静止する日』だ。最近作られたほうは駄作だが、オリジナルのほうはオレにはとても意味のある作品だよ。
●アジモフや他のSF作家たちは、社会の見方や、ロボットの倫理といった問題を鋭く指摘したの点で、時代を先取りしていました。
そうだね。優れた作家だった。
●ところで、ジェファーソン・スターシップがリリースしたばかりのCD4枚組のボックスセット《Tales From the Mothership》には、リハーサルやライヴ等さまざまなマテリアルが収録されていますが、既に何か新しいプロジェクトには取り組んでいるのですか?
ああ。2つやってるよ。まず、ジェファーソン・スターシップのロックンロール・アルバムの作業をしている。これにはSFナンバーと、「フォーク」ミュージックっていう呼び方はしたくないんだけど、ある意味《Jefferson's Tree Of Liberty》と同じ流れをくんで、アコースティック・ギターやバンジョー、ヴォーカル、ピアノといった編成で演奏しているフォーク系の曲が収録される予定だ。こうした要素が組合わさったものになるだろう。今、両方のアルバムの作業を行なっているところだ。カルタゴやマグダラのマリア、エイリアン一般について入念に調べたりしてね。サンフランシスコに住んでるから、それ以外の地域の人間からは、オレたちはエイリアンだって思われることが多いから、オレはそういう感情も好きだね。
●アイオワ州フェアフィールドに来れば大丈夫なのに。(笑)
いいか、よく聞け。バンドの最初期に、コンサートをやるために初めて飛行機でアイオワに行った時、オレたちは空港から6台のパトカーに追跡されたんだぜ。オレたちが何者なのか確認する必要があるとかでさ。連中は今でもまだオレたちの正体を理解してないと思うよ。そのおかげで長年ずっと安全なんだけどね。
●傑作ですね。私が昔から皆に訊いてる質問をあなたにもうかがいたいと思います。新人アーティストに対してどのようなアドバイスをしたいですか?
“著作権は売るな”というのがデヴィッド・クロスビーからもらった最もすぐれたアドバイスのひとつだ。デヴィッドはバーズに在籍していて、オレたちは活動を開始したばかりの頃だった。デヴィッドがオレに言ってくれた大切なことのひとつが“著作権は売るな”だった。確かにその通りだった。それから、とにかく演奏しろ。演奏を楽しめば、戦いは半分で済む。スターになろうとか、金を稼ごうという気持ちでステージに立つなら、成功する可能性はあまりないね。
●アコースティック中心のアルバムを作る予定だと先程おっしゃっていましたが、古くからの友達もアルバムに参加するということですか? 例えば、デヴィッド・クロスビーとか。
回りに誰がいるかによるね。ジャック・トレイラーは今でも時々オレたちと一緒に仕事をしている。それからあの時代の人全員もね。もし彼らが街にいて、オレがレコーディングをしていたら、一緒に何かやる方法を考えるだろうね。こういうふうにして、今回のアルバムにピート・シアーズやバリー・スレスに参加してもらったんだよ。彼も優れたミュージシャンだ。
●デリケートな事柄なのかもしれませんが、他のオリジナル・メンバーも参加する計画はあるのですか?
オレたちはいつもノー・プランだ。オレたちが計画を立てたりしたら、神様が笑っちまうよ。計画なんか必ず変わってしまうものさ。計画を立てて、それを実行しようとしても、意外で面白いことが殆ど必ず生じて、アルバムであれ、現在執筆中の2冊の本であれ、作業が終わる頃には古い期待はどこかに消えてしまう。本のひとつはバンドのほうでタイトルを盗ませてもらった《Tales From the Mothership》で、これはオレの自叙伝じゃなくて、過ぎ去った時代の思い出話みたいなものだ。もうひとつは、氷河期と戦うSF小説だ。今は氷河期ではないけど、数人のロックンロール銀行強盗と一緒に氷河期と戦うという話だ。
Copyrighted article "A Conversation With Jefferson Starship's Paul Kantner" by Mike Ragogna
http://www.huffingtonpost.com/mike-ragogna/a-conversation-with-jeffe_b_1826719.html
Reprinted by permission.