今回紹介するのは、1980年にパンク/ニュー・ウェイヴ音楽のファンジン『Jet Rag!』に掲載されたチャック・ベリーのインタビューです。手作り感がハンパない(タイプライターで打ったものだ!)オリジナルの紙面のスキャン画像は下のページで見ることが出来ますが、ワープロが普及する前の時代の歴史的遺物ですよ、これは!。チャック・ベリーと一緒に写真におさまっているデビー・ハリーが超美人なのにも注目です!
MUSIC RUINED MY LIFE
"Chuck Berry Reviews Punk Singles (1980)
http://musicruinedmylife.blogspot.jp/2012/10/chuck-berry-reviews-punk-singles-1980.html
当時のチャック・ベリーは、名曲を生み出す泉が涸れて久しく、レコーディング契約もなかったとはいえ(最後のヒットは1972年の〈My Ding-A-Ling〉でしょうか?)、ニュー・ウェイヴvsオールド・ウェイヴという対立を止揚・超越したレジェンド的存在になっていたことが、この記事からうかがえます。と同時に、当時の音楽をチャックがどう思っていたのかもわかる、オモシロ記事だと思います。
チャック・ベリー、パンク/ニュー・ウェイヴを語る
1955年6月、〈Maybellene〉というレコードが発売された。ビルボード誌のR&Bチャートを一気に駆け上って1位になったこの曲こそ、今もなお若者文化の音楽であるものに、そのトレードマークとなる形式を与えたロックンロールの第1号だった。チャック・ベリーがいなければ、ブリティッシュ・インヴェイジョンもない。このブームの土台にあったのが、チャック・ベリーのリズム、コード進行、サウンドだからだ。リズムとメロディーが計算ずくでミックスされた彼の音楽はロックンロールを永遠に定義づけたが、それはブルースとニューオリンズのダンス・リズムを絶妙に融合したものだった。チャック・ベリーはロックンロールの全ての要素の「ペルソナ」であり、誰もが認めるロックの語り部である。時代を超越した音楽を作ったチャック・ベリーは「不易流行のモデル」なのだ。
●最初にやったギグはどんなものだったのですか?
最初のギグは大晦日だった。友人{ダチ}のジョニー・C・ジョンソンのバンドが、後任のギタリストを探してたのさ。あの頃、オレはそんなに上手にプレイすることが出来なかったんだが、こいつのバンドで勉強し、練習して、腕を上げたんだ。
●当時は、どんな音楽を演奏していたのですか?
ナット・キング・コールやルイ・ジョーダンの曲をやってたよ。それからマディー・ウォーターズの曲もたくさん。
●客席にはいろんな人がいたのでしょうね。
ああ。オレたちのギグにはいろんな地域からたくさんの人がやって来たんだが、あの頃は、そういうのって特殊なことだったんだ。白人の多くは怖がって、黒人コミュニティーには入って来ようとしなかったからね。
●ショウはどういう雰囲気だったのですか?
ダンス・パーティーだったよ。みんな一緒にダンスに興じてたさ。トラブルは皆無だった。
●どういういきさつでチェス・レコードと契約したのですか?
シカゴの友人{ダチ}の家にいた時、マディー・ウォーターズのショウを見に行くことにしたんだ。休憩時間に、どうやったらレコーディング契約を獲得することが出来るか、マディーにアドバイスを求めたら、レナード・チェスに連絡を入れろって言われたんだよ。それで、会いに行ってみたら脈ありって感じだったんで、2週間後に〈Maybellene〉〈Wee Wee Hours〉〈Too Much Monkey Business〉〈Roll Over Beethoven〉の4曲が入ってるテープを持って再び会社を訪問したんだ。そしたら、とても楽しんで聞いてもらえて、今度はバンドを連れて来いってことになった。そんな感じさ。
●初のレコーディング・セッションの様子を教えてください。
バンドはオレとジョニー・C・ジョンソンとハーディーで、ウィリー・ディクソンがベースを弾いてくれた。〈Maybellene〉は36回演奏してやっと完成したんだ。他の曲はもっと早く仕上がったよ。
●多くの曲の中で、あなたは観察者的な立ち位置にいるようですね。誰かの人生の一部を第三者的に見ています。
常に目と耳を開いて、若い連中がどんなものに関心を持ってるのかチェックし、彼らの感情を通訳して曲にしてるのさ。
●彼らの気持ちを意味のある言葉にするためには、同じ生活スタイルを経験しなければならないと思いますか?
あいつらのものの見方はオレとは違うかもしれないが、連中の行動を観察してると、オレはその点でいい線いってるんじゃないかと思うよ。
●つまり、あなたはティーンエイジャー研究家なのですか?
ああ、そうだ。いつも近くにいて、常に接している。
●ミュージシャンとして駆け出しの頃、あなたのスタイルはどんな人から影響を受けたのですか?
ルイス・ジョーダンのところのギター・プレイヤーのカール・ホーガン、マディー・ウォーターズ、Tボーン・ウォーカー。それから、ベニー・グッドマンのギタリストだったチャーリー・クリスチャンだね。
●こんな窮屈な状態で長期に渡るツアーを続けてきて、どのような気分ですか?
最初は本当にワクワクしたよ。若い連中が初めて生のロックンロールのコンサートを体験して、ワイルドに盛り上がるのを見るのはエキサイティングだったが、そのうちウンザリしちゃったな。一番気に障ったのが、セット・チェンジの際に機材をあちこち動かされてしまったことだ。じっくりサウンドチェックが出来ないことが多かった。まあ、当時は、コンサートの機材からして、最適とは言えないものだったけどな。
●音楽のアイデアはどのように得るのですか?
メロディーは若い連中用に考えるが、歌詞は大人にも良いと思ってもらえるようなものを考える。
●つまり、ちょっと計算しているわけですか?
それってどういう意味だい?
●両者のバランスを取ろうとすると、その過程でフィーリングが少し失われてしまうと思います。あなたの音楽に対する批判があるとしたら、あなたの作る歌は、いつもお馴染みの内容ばっかりで、私たちが既に知ってることしか反映してないという点です。初期のレコードは深い洞察を与えてくれましたが。
オレの目的はいつも、みんなが感じていることを音楽で表すことだ。今まさに起こっていることをやってる人を捕まえて、テーマに沿ってこうした実例を曲の中に入れることもある。一方、オレ自身の感情をつかまえて、それをレコードに入れることもあるが、似たような感情をどっかの時点で抱いた経験のある人はたくさんいるはずだ。
●個人的な災難がふりかかった時に怒りの感情を抱いたこともあると思いますが、怒りのはけ口として、それを歌にしたくなることはありますか?
ないね。そうしようかと思ったことはあるけど、人は他人の個人的な問題なんて聞きたくだろ。自分の問題だけで、もう十分だ。抱えてる問題を、たとえ束の間であっても、忘れさせるような音楽を作るべきだ。攻撃的な感情を発散したかったら、立ちがって踊れ。それがロックンロールの本質だ。問題についての曲を歌ったり聞いたりしても、問題は消えないよ。だいたい、こうした曲は問題を永久に解決してくれる答えを用意してるわけじゃない。悲しみにどっぷり浸りたかったら、ブルースのレコードを聞けばいいさ。
●最近はどんな音楽を聞いているのですか?
特にこれってもんはないね。ブルースやゴスペル、それからロックも少々。ここ10年ほどの間には6枚しかアルバムを入手してないし、そのうち4枚はもらいものだ。自分の時間の大半は、スタジオでレコーディングしたりのらくらしたりして過ごしてしまった。
●ロックンローラーとして25年間も生き残れると感じていましたか?
こんなに長く続くとは思ってなかったよ。駆け出しの頃に言われたのは、3年間は〈Maybellene〉を引っさげてツアーをやれるぞってことだった。
●将来の計画はどんなことですか?
目下、レコーディグ契約を物色中さ。マテリアルはたくさんあって、すぐに録音出来る状態だ。14人編成のバンドを作って、オレのいろんな大ヒット曲の新しいバージョンをレコーディングしたいな。
●たくさんの大物アーティストがなたの曲を録音していますが、特に誰の演奏がお気に入りですか?
ビートルズのバージョンがいいね。他にもいくつかあるかな。でも、全部を聞いてるわけじゃない。だって、誰が一番うまいかわかりきってるだろ(ウィンク)。
チャック・ベリーによる最新音楽レビュー
セックス・ピストルズ〈God Save The Queen〉
こいつは一体何について怒ってるんだい? ギターはなかなかいいね。コード進行はオレとよく似ている。バックビートもいいんだが、ヴォーカルの殆どの部分は理解出来ない。怒ってるんなら、自分が何に対して怒ってるのか、みんなに分からせなきゃいけないよ。
クラッシュ〈Complete Control〉
最初の曲と似たようなもんだ。リズムとコード進行のコンビネーションはいい。こいつはヴォーカルのレコーディングの時に風邪ひいてノドがガラガラだったのかな?
ラモーンズ〈Sheena Is A Punk Rocker〉
気の利いたジャンプ・ナンバーだ。このバンドを聞くと、駆け出しの頃の自分を思い出すよ。オレもコードを3つしか知らなかったし。
ロマンティクス〈What I Like About You〉
20/20〈Cherie〉
ザ・ビート〈Different Kind Of Girl〉
やっと踊れる音楽が出てきた。オレのリフをうまくちりばめた1960年代風の曲だ。これが新しい音楽だっていうの? こうした音楽は何度も聞いたことがある。大騒ぎされるようなものかなあ?
グラディエイターズ〈Sweet So Till〉
トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ〈Funky Kingston〉
セレクター〈On My Radio〉
いいね。なめらかでソウルフルだ。ダンス向きだ。オレの古いダチのボ・ディドリーみたいだな。ちょっとテンポが遅いけどさ。オレも〈Havana Moon〉て曲で似たようなことをやってみたよ。
デイヴ・エドモンズ〈Queen Of Hearts〉
この曲はいいね。こいつは本物のロックンロールの演奏の仕方を知っていて、とてもいいフィーリングを持っている。まだビッグになってないの? 仕事が必要ならオレがバックに使ってやってもいい。
トーキング・ヘッズ〈Psycho Killer〉
ファンキーな曲だ。ベースが気に入った。いろんな要素がミックスされていて、流れもいい。ヴォーカルは緊張が悪いほうに作用しているしてるような歌い方だ。
ワイヤー〈I Am The Fly〉
ジョイ・ディヴィジョン〈Unknown Pleasure〉
これがいわゆる新サウンドってやつなの? 聞いたことあるぜ。B・B・キングやマディー・ウォーターズがシカゴの古いアンフィシアターのバックステージで延々とやってたブルース・ジャムみたいだなあ。楽器は違うかもしれないが、実験してることは同じだ。