2016年10月22日

《Prog Noir》発売記念トニー・レヴィン・インタビュー

 20年くらい前にロバート・フリップにインタビューした時に、トニー・レヴィンはキング・クリムゾンに参加して俄然評価が高まりましたね、なんて文脈で、「彼はキング・クリムゾンに入る前は単なるスタジオ・ミュージシャン(just a session man)でしたが…」と言ったら、フリップから「キミねえ、単なるじゃないよ(NOT JUST!)」って訂正されてしまいました。あわてて適切な表現で言い直したことは言うまでもありませんが、そんなつもりはこれっぽっちもなかったとはいえ、あの時の失礼で無神経なものの言い方は今でも思い出すと超赤面です。その数年後にリキッド・テンション・エクスペリメントのアルバムが出たタイミングでトニーに会った時には、こんな失敗はせず(だといいな)、見事なスキンヘッドを間近で見ながら(側頭部には毛根が残ってた)、各ミュージシャン/プロデューサーのチャップマン・スティックに対する反応の違いを訊きました。ピーター・ゲイブリエルのプロデューサー(ボブ・エズリン)は未知数のものがレコーディングで使用されるのを避けたいらしく、スティックには難色を示してたのだとか。ジョン・レノンは何と言ってたか…。テープが見つかったら聞き直してみます。



 ということで、今日は当ブログではお馴染み、マイク・ラゴーニャによる最新インタビューを紹介しましょう:




トニー・レヴィン・インタビュー

聞き手:マイク・ラゴーニャ


1980年代にキング・クリムゾンやピーター・ゲイブリエルのバンドで活躍していた他、ジョン・レノン、ピンク・フロイド、デヴィッド・ボウイからデイムズ・テイラー、ルー・リード、シェールまで、殆ど全ての有名アーティストのアルバムやツアーで演奏していますね。あなたはレッキング・クルーを抜かしたら、存命中のベーシストの誰よりもたくさん、アルバムのプレイヤー・クレジットに名前が載ってるんじゃないですか。その点についての感想は? また、どのようにしてこの現象を引き起こすことが出来たとお考えですか?

 演奏活動を共にしてきた偉大なアーティストたちと同じくらい、私もラッキーだったんだよ。実際、優れた音楽をやって生計を立ててきた人なら誰だって、幸運に感謝していて当然さ。

他の人のレコーディングや、誰かのライヴでバック・ミュージシャンとしてプレイする際には、必要な土台を供給する以外に、あなたのほうから意識して革新的なことをやろうと試みるのですか? それとも、プロデューサーやミュージシャンのほうが、「トニー・レヴィン」のサウンドやアプローチ、フレーズがほしくて、あなたを雇っているのですか?

 いろいろだよ。こういうフレーズを弾いてくれって言われる場合もあるし、私に丸投げされる時もある。たいがいは、この2つの中間だ。どういうやり方でも気持ちよく演奏することが出来るんだけど、特別いいものが出来るのは、ソングライターとコラボして、曲にぴったりのベース・パートを考える時だね。革新的なことをやろうってことに関しては、完全に曲次第だ。常軌を逸したことをベースに求められる場合もあるんだけど、とてもシンプルなフレーズだと感じられる時が、ベストなんだよな。そういう時には大満足だ。

あなたはチャップマン・スティックの存在を世に知らしめた最初のベーシストです。あなたの芸術は、この楽器からどのくらい深く影響を受けましたか?

 このステキな楽器に出会ったのは1970年代後半で、キング・クリムゾンとか、プログレッシヴな音楽の時に使い始めたんだ。スティックにはベース弦とギター弦があるんだけど、最初の数年間は「ベース側」ばかり使ってた。そこだけでも、弦が6本もあるんだけどさ。練習の末にやっと、残りの弦からギター・サウンドも出せるようになったんで、スティック・メンていうバンドを結成したんだ。1つのバンドの中にタッチ・スタイルのギターが2本あったらどうなるのか冒険してみようって思ってね。

スティック・メンのニュー・アルバム《Prog Noir》にはマーカス・ロイターが参加し、キング・クリムゾンのドラマー、パット・マステロットとも再会を果たしています。長年一緒に演奏していて、バンドとしての演奏はどのように進化を遂げていると思いますか?

 パットとはとても強い絆で結ばれている。リズム・セクションとして20年、ツアーやレコーディングをやってきたからね。彼がスティック・メンというトリオにもたらしているのは、キング・クリムゾンでやってるようなエレクトニクスとアコースティックなドラムをミックスさせたスタイルに対して、非常にユニークなアプローチで、クリエイティヴなやり方で取り組んでることだ。ダブルのタッチ・ギターに彼が加わると完全なものになる。このバンドはとてもユニークなサウンド、アプローチになってると感じてるよ。

《Prog Noir》は、ひとりひとりのミュージシャンがセッションに持ってくるアイデアに基づいた音楽をやっているのですか? それとも、何か手応えがあるまでグループ全員が即興で演奏するというアプローチを取っているのですか? 歌詞はどのように用意したのですか? そもそも、どういうプロセスで曲を作っているのですか?

 曲作りは私かマーカス・ロイターが始める。マーカスは自分でデザインしたU8タッチ・ギターをプレイしているんだ。私かマーカスが作り始めた曲を他のプレイヤーに渡してみるんだ。そうすることで曲が大きく変わっちゃう時もあるんだけど、多くの場合、新しい曲には形と歌詞が存在していて、形はそんなに変わらない。私が歌詞を書いたのは〈Plutonium〉って曲だ。冥王星{プルート}は惑星から準惑星に格下げさて、その後の消息は?っていう皮肉な内容だ。〈Never The Same〉って曲は、キング・クリムゾンへの復帰体験を歌ったものだ。〈The Tempest〉は9/11の大惨事について歌ったもので、タイトル・トラックはプログレッシヴ・バンドのツアー活動についての曲だ。

曲作りやアルバムのレコーディングの際に、難題はありましたか?

 普段は、バーナー上にあるマテリアルをアルバムにしてバーンて出しちゃうんだけど、今回のアルバムは1年余計にかけてあれこれ手直しして、全てのパートと歌詞を出来る限り洗練されるものにしたかった。ツアーのスケジュールで忙しかったのがアルバム最大の難所だった。音楽的には、最初から最後まで楽しかったよ。

このプロジェクトは「歌」vs「ジャム」という方向性で、多くのトラックでヴォーカルがフィーチャーされています。最終ミックスを最初から最後まで聞いた時に、どういう第一印象を抱きましたか?

 難しい質問だなあ。録音して、ミックスして、マスターを作る頃には、音楽の隅々まで知り尽くしてる状態になってるから、全体的なセンスを新たに体験するというのは簡単なことじゃない。だから、うまい曲の順番を考える作業の殆どは、そうなる前にやることにしてるんだ。つまり、曲がしっかり書かれてるんだけど、レコーディングのほうはまだ完全に済んでない状態の時にね。最後の瞬間に変更が生じる時もある。このバンドはメンバー全員が平等で、ひとりひとりの意見が尊重されてるので、少なくともこのバンドでは、こういう時には常にこう、のようなルールは存在してないんだ。

今回のプロジェクトでは、あなた個人の、もしくはグループの期待を凌駕したトラックもいくつかあるんじゃないですか?

 私の期待を超えてる曲はたくさんあるよ。完成したアルバムから1週間離れてた後に、誰かのためにそれを再生し、その人と一緒に聞いてみると、感動しちゃうんだ。この場合、こういう音楽を作ろうっていう初志を貫徹したんだという点でね。〈Never The Same〉〈Leonardo〉〈Trey's Continuum〉〈Prog Noir〉ではそういう気持ちになった。

アーティストとして、作曲家として、演奏家として、《Prog Noir》はあなたを100%満足させる作品ですか?

 難しい質問だ。私に正しい判断力はあるのかなあ? 出来る限りの努力をして音楽を作って、それを世に出したら、その作品はひとりで歩いていくようになる。どこか遠くの場所で、誰かに聞かれて、その人の内面にわずかに影響を与えるかもしれない。そうなったら、音楽を作る価値があったという証明になる。それ以上のことは単なるオマケだ。

音楽のレコーディング活動、演奏活動と、あなたのもうひとつの優れた才能、写真家としての活動とを、どのようにしてバランスを取っているのですか? まだ皆には知られてない趣味とかもあるのですか? 例えば、究極の料理の腕前とか。

 下調べをしたようだね。お褒めの言葉、ありがとう。ツアー中、コンサートのスケジュールの邪魔にならない時に、よく写真を撮ってるんだよ。それをネットで公開して、音楽のファンとシェアするのは楽しいね。自分のウェブサイトを作っていて、しばらく前に気づいたんだけど、コンサートに来てくれるファンは、ステージ上から撮った、我々の目線で見た会場の写真を見て本当に楽しんでるんだ。彼らから与えられるエネルギーが素晴らしいコンサートの一翼を担ってるってことを、ファンと共有しようとしてるのさ。ツアーに出てない時でも、たいてい、仕上げたい音楽プロジェクトを複数抱えている。幸運なことに、過去数年間に、スティック・メン、キング・クリムゾン、ピーター・ゲイブリエル、レヴィン・ブラザーズ等のバンドでたくさんのツアーを行なっているし、今はゆっくりなんだけど、長年の間に撮りだめておいたツアー写真の展覧会の準備もしている。『Fragile As A Song』ってタイトルの詩集も出したばっかりだ。

新人アーティストにはどんなアドバイスをしますか?

 前に言ったことの繰り返しになるんだけど、ライフワークとして音楽や芸術を作ることが出来るのは、とても幸運だと思うんだ。この分野は、人生をそれに捧げ、どんなにハードルが高くても頑張り続ける人のみが、残っていられる世界だ。自分がそのひとりなら、楽しめばいいんじゃないかな。それに値するし。

どんな依頼でも受けちゃうんですよね? ポール・サイモンの映画『One Trick Pony』では俳優までやってますし。

 今後も依頼は多いだろうなあ。プロデューサー連中は私の演技力が成熟するのを数十年待っているわけだから。

あなたのキャリアはピーター・ゲイブリエルのそれと絡み合ってるようですね。ピーターのレコードの殆どと、ツアーの多くに参加しています。彼の音楽や人となりのどんなところが、あなたと共鳴しているのですか? あなたはピーターの作品にどんなものをもたらしてると思いますか? 私がピーターに関する質問をしているのは、殆どスピリチュアルともいうべきものがあるのではと感じているからなんですが…。

 ピーターは偉大なアーティストで、人間としても優れている。そして、ラッキーなことに、私の大親友だ。1976年に会った時から独自のキャリアを突き進む一方、自分の周りにいる人間には一貫してやさしく、謙虚だ。ピーターの音楽スタイルは長いキャリアの間にガラッと変わったけど、常に強固で、意識して音楽にアプローチしていて、それに深い意味を持たせている。そしてもちろん、有名である立場を利用して人権擁護の運動もしていて、ロック界全体で彼に共鳴する人が多い。それに、ピーターがいれてくれるお茶は美味しいんだよ。

レヴィン・ブラザーズとして兄弟でもレコーディングをしてますが、お兄さんと一緒に音楽をやるというのはどんな感じなんですか?

 ピートと私は昔からとても仲がいい。音楽的にも性格的にもね。数年前に、私たちが聞いて育った音楽の王道----1950年代のクール・ジャズ----のアルバムを作ることにしたんだ。新たに曲を作ったんだけど、ああいうスタイルにしてみたのさ。メロディーが美しい短いナンバーで、ソロも短いやつね。あのバンドでは私がベースとリード・チェロを演奏して、ピートがオルガンとピアノをプレイしている。私たちが最初にやった音楽体験に戻ることが出来て、とても楽しかった。アルバム《Levin Brothers》は愉快な作品だ。さらに楽しいことに、スケジュールの合間をぬって、少しツアーが出来ることになったんだよ。来年の春に、南アメリカとアメリカ東海岸をツアーする予定なんだ。

《Prog Noir II》のレコーディングにはいつ取り組む予定ですか?

 そんなこと考えてもいなかったよ。この件に関しては、今、しっかり頭に入れた。ありがとう。

あなたはベースをプレイすることが好きでしょうがない人なんですよね。今、私はニュー・アルバムのレコーディングしてるところでして…。

 いいですよ。あなたのベーシストになってあげますよ。デモを送ってくれないか。ただし、2017年の夏か…18年か…。

Copyrighted article "Prog Noir And Beyond: Conversations With Tony Levin" by Mike Ragogna
http://www.huffingtonpost.com/entry/prog-noir-and-beyond-conversations-with-tony-levin_us_57dcc0c1e4b04fa361d99a66?
Reprinted by permission


   
posted by Saved at 22:56| Comment(0) | TrackBack(0) | Prog Rock | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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