2018年01月30日

イギリスの有名ブートレッガー「ミスター・トード」が死去

 これはレッド・ツェッペリンのファンサイト「Led Zeppelin News」に1月26日付で掲載された記事ですが、ミスター・トードというと、ボブ・ディランのブートレッグもたくさんリリースした人物です。ゴスペル曲のみで構成されたコンサート(1979年11月16日サンフランシスコ公演)を収録した史上初のブートCD《Contact With The Lord》や、1981年ヒューストン公演のサウンドボード・テープを収録した《You Can't Kill An Idea》を1990年にリリースした後、ボブ専門レーベル、Wanted Man Musicも作りました。今から四半世紀以上前に、ゴスペル期再評価の最初のきっかけを作ったのがミスター・トードといっても過言ではありません。



イギリスの有名ブートレッガー「ミスター・トード」が死去
文:ledzepnews


 ミスター・トードのニックネームで知られているブートレッガーで、2007年の海賊盤裁判で注目を浴びたロバート・ラングレイが、今月上旬にこの世を去った。
 ブートレッグ情報サイト「Collectors Music Reviews」もラングレイ死去のニュースを報じているが、死因は明らかになっていない。
 2007年にジミー・ペイジが証人として出廷して話題となった裁判では、ラングレイに懲役20カ月の判決が下っている。
 ラングレイは、2005年5月にスコティッシュ・エキシビション&カンファレンス・センターで開催されたレコード・フェアに警察の捜査が入った際に逮捕された。その際、彼が権利者に無許可で違法に販売していた大量のブートレッグが、警察によって発見された。
 この人物が£11,500相当のレッド・ツェッペリンのブートレッグの他、£1,790相当のローリング・ストーンズのブートレッグ、£885相当のビートルズのブートレッグを所持していたことが警察の捜査で判明したと、BBCニュースは報じている。
 ラングレイは、初めのうちは、3件の商標権侵害、2件の著作権侵害については否認し、抗弁していたが、ペイジが出廷して彼に不利な証言するに至り、遂には有罪を認めた。
 ザ・スコッツマン紙の記事によると、ペイジはジュディス・ハッチンソン地方検察官にこう語ったらしい:

「ファン同士で音楽をトレードするまでは問題ないですが、何かと交換するつもりはなく、それを商品化するやいなや、法律的にも道徳的にもルールを侵していることになります。…そうしたレコーディングの中には、ブンブンいってるだけで、音楽が聞こえないものもあります。もしこうしたものが正規にリリースされるとしたら、正しいことではありません」

 ペイジが出廷したことは、当時、マスコミで大きく報じられた:


 クリントン・ヘイリンがブートレッグ産業の歴史について著した本『Bootleg!』には、ラングレイの発言がフィーチャーされている。彼は「ミスター・トード」の名前でインタビューに答え、1990年代初頭はブートレッグCDを製造するのに大変苦労したと、ヘイリンに語っている。
 彼が作ったボブ・ディランのCDブートレッグ第1作目はこんな感じの出来になってしまった:

「初めて作ったCDは酷い代物だった。究極的に酷かった」とラングレイは語る。「《They Don't Deserve It》は届いてみたら滅茶苦茶だったよ。工場に送ったのは75分間の音源だったのに、戻ってきたら、あちこちがカットされて72分になっていた。…ボリューム・レベルも滅茶苦茶で、送ったテープとは全然違っていた。イスラエルに行って、韓国に行って…。戻ってきたら、裏ジャケットは、こういうデータを載せてくれって業者に渡した、[ミセス・トードが]タイプ打ちした原稿をそのまま印刷したものだった。白い紙にね」

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 ラングレイはこの本の中でこんな話もしている。彼のブートレッグCDレーベル、Silver Raritiesは、CDの製造工場を探しにドイツに行ったのがきっかけで、1991年8月に誕生したもので、その後、新たにディラン専門のブートレッグ・レーベル、Wanted Manも立ち上げられた。
 イギリスでCDをプレスしてくれる工場を発見することが出来たおかげで、ラングレイは事業を拡大することに成功したのだが、ヘイリンはこのあたりの事情をこう説明している:

「彼は聖杯に出くわした。持って行った音源が何であれ、つべこべ言わずに製造してくれるプレス工場が、イギリスにあるのを発見したのだ。しかも、自分の代わりにあらゆるリスクを引き受けてくれる仲介人も見つけたのだ。イギリスの約半数の卸業者のために前代未聞の値段とスピードでCDをプレスしてあげたことで、彼は誰も逆らうことの出来ない人物になった。
 しかし、これが一時的な状態で、いつかは過ぎ去ってしまうだろう、自分が撒いた憎しみの種が7倍になって返って来るだろうとは、ミスター・トードは夢にも思っていなかった。著作権保護制度の隙間の蝶番{ちょうつがい}がはずれていた非常に短い間、イギリスはヨーロッパのブートレッグ製造の中心地となっており、ミスター・トードは、こうなりたいと夢に見ていた成り上がりの荘園領主のように、そこの主となっていたのだ」



The original article "The legendary bootlegger known as 'Mr. Toad' has died" by Ledzepnews
http://ledzepnews.com/2018/01/26/robert-langley-mr-toad-bootleg-dead/
Reprinted by permission

   



[訳者によるオマケの一言]

 この記事に登場している《They Don't Deserve It》は、完全収録じゃない、編集が雑、音質が悪いという3重苦のクソブーとして有名なのですが、こんな笑える裏エピソードが存在するとなると捨てられません。
 クリントン・ヘイリン著『The Great White Wonders: The Story of Rock Bootlegs』の初版が出たのは1994年で、2度目の増補改訂版『Bootleg: The Rise & Fall Of The Secret Recording Industry』が出たのが2003年なので、ミスター・トードの1度目の逮捕の話までしか載っていません。今回の訃報を受けて、数年前に勝手に翻訳して自分用に電子書籍化したものを読み返してみたところ、ミスター・トードの部分で重大な誤訳を発見。涙。(さっさと修正)

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 ミュージシャンの訃報も数多く耳にしますが、ブートレッガー、テーパー、カメラ小僧、名物ファンもひとり欠け、ふたり欠け…と寂しい今日この頃です。

posted by Saved at 22:19| Comment(0) | Music Industry | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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