2018年02月21日

さらにしつこく『神を信じていなかった』本の書評

 第4章まであれこれ言ったついでに、最後までいっちゃいましょうか。もうこの本の大宣伝状態です。
 第5章は、これまでのまとめとして、プレスリーとディランの違いについてもうちょっと述べた後、ローリング・ストーンズ及びブリティッシュ・ロック一般に触れ、さらに、ロックがキリスト教化する「必然性」について持論を展開していますが、ツッコミどころが多数あることは、第3〜4章と同様です。(ところで、PPMやプレスリーについて詳しい人が第1〜2章を読んでどう思ったのか知りたいです)



(p.206)そうしたエルヴィスと比較したとき、ディランが、ゴスペル・アルバムを作っていた時期は短いし…実生活でもユダヤ教の信仰世界に戻ってしまったのである。

 さっき、p.146で「その点について簡単に結論を下すことがむずかしくなってくる」って言ってたのに。

(p.206)エルヴィスはゴスペルを聴きながら幼少期を過ごしたわけだが、ユダヤ教の家庭に育ったディランの場合には、そうした経験は全くなかったはずである。
(p.209)彼は、ゴスペルではなく、ユダヤ教音楽を聴きながら育った可能性が高い。

 島田は20世紀後半のあらゆる音楽にとって重要だったツール、ラジオの存在を忘れてないか。ボブは2006〜09年に『Theme Time Radio Hour』という番組のDJを担当し、自分が若い頃ラジオでいろんな音楽を知ったので、その恩返しをする番だとして、幼少期〜今まで好きだった音楽をたくさん紹介しました。その中にはキリスト教にまつわる歌がたくさんあったのですが、島田はそのプレイリストをチェックしたのでしょうか?

   

(p.210)たとえゴスペルを歌ったとしても、それは彼の体に染みついたものではない。…どうしても表面的なもの…ゴスペルを歌うようになるには、幼少期にそうした音楽体験をしていなければならない。ディランにはそれが欠けていた。

 島田の考え方だと、幼少期に体験したものじゃないと、本物として歌えないってことですね。ボブのゴスペルは表面をなぞっただけの偽物だったんですね。へえ〜。我々には思想の自由、言論の自由があるので、どう感じるかは人それぞれだと思います。正直、私もずっと疑問を抱えてたので、メイヴィス・ステイプルズが来日した時に直接訊いてみました。「本業のゴスペル歌手であるあなたからすると、ボブのゴスペル曲は本物ですか?」って。答えは「イエス」でした。
 もし表面的な薄っぺらいものだったら、多数の本物のゴスペル・シンガーたち(キリスト教の信仰も持っている)がボブのゴスペル曲を歌った《Gotta Serve Somebody: The Gospel Songs Of Bob Dylan》なんてアルバムは生まれたでしょうか? 超老舗の黒人ゴスペル・コーラス・グループのザ・ディキシー・ハミングバーズはボブの〈The City Of Gold〉をカバーしたでしょうか?
 
(p.210)アメリカのミュージシャンたちは、ユダヤ人を除けば、幼い頃から教会に通い、キリスト教の音楽世界にふれている。

 レコードやラジオ、テレビがあるので、ユダヤ人を含む全員が、あらゆる音楽に触れることが出来ます。現在では、それにプラスしてインターネットがあります。どうしてユダヤ人を除くのでしょう? ユダヤ人だからユダヤ音楽だけなんてあり得ません。ボブの場合、ユダヤの伝統音楽よりもゴスペルからのほうがはるかに大きな影響を受けています。レコードを聞けば明らかです。
 ボブがユダヤの伝統音楽を演奏した数少ない例が、ゴスペル時代が終わった後、1980年代後半にユダヤ人のチャリティー団体のテレビ・ショウに出演した時です。笛をピロピロ吹いてる迷演です。





 ボブがこういう音楽をやるのは例外のほうです。ボブはこの頃ルバヴィッチなんとかという団体の主催するこのチャリティー番組に何度か出演してるので、この難しい名前の人々がどういう教義を持っていて、どういう性質の団体なのか、アメリカ社会の中で彼らとつきあうというのはどういうことなのか、ボブのキリスト教改宗時にこの団体がどう反応したのかを、宗教学者の立場から説明してくれたら、ボブへの理解がもっと深まると思うのですが…。
 それから、ユダヤ系の音楽について説明するのにベン・シドランを取り上げてますが、彼がボブ・ディラン曲集《Dylan Different》を出してるのを、島田は知ってるのでしょうか?

(p.213)アメリカのポピュラー音楽の世界は…人間同士の恋愛を歌ったものでも、神からの愛、神への愛を暗示していることが少なくない。
(p.215)(イギリスのロックは)アメリカのロックから影響を受けた場合でも、むしろ信仰の要素がまったく見られない音楽が中心になっていた。
(p.216)(ローリング・ストーンズに関して)このアルバム(《Aftermath》)にも宗教や信仰に結びつくようなものは見出せない。それは、他人の曲が殆どを占めた最初のアルバムについても共通している。

 信仰の要素が見られる曲は避けて影響を受けたってこと? えっ? イギリスのミュージシャンは信仰の要素が見られる曲を大量に取り上げてると思います。特にブルース、R&B、ソウル系の人は。幼少期のゴスペル体験から始まってプロになった黒人ソウル/R&Bシンガーの歌う曲(ポピュラー音楽とはいえ、神からの愛、神への愛を暗示していることが少なくない----って島田がさっき言ってました)を、デビューしたてのローリング・ストーンズはたくさんカバーしています。例えば、わかりやすい例だと《Out Of Our Heads》に入ってる〈Mercy Mercy〉はどうでしょう。「Mercy」(慈悲)なんて説教の中に出てくる常套句です。

   

(p.219)この曲(〈Sympathy For The Devil〉)以外に、ローリング・ストーンズが悪魔を歌ったような曲はない。

 言い切っちゃってます。アルバムのタイトル、曲名すら確認しなかったのでしょうか? わかりやすい例だと、《Their Satanic Majesties Request》というアルバム、〈Dancing With Mr.D〉という曲があります。ミックは、サタニズムの世界では有名な映画監督ケネス・アンガーからの要請で『Invocation Of My Demon Brother』という映画のサントラを担当してもいます。



(p.216)〈I Just Want To Make Love To You〉だと、アメリカのブルース歌手、ウィリー・ディクソンが作った曲だけに、ゴスペルのテイストを持っている。だが、そのぶん、ローリング・ストーンズらしくない。

 私は反対に、この曲にストーンズらしさは見出せますが、ゴスペル・テイストは見出せません。単なる意見の相違ですけどね。島田はファースト・アルバムは聞いたようですが、〈Can I Get A Witness?〉にはゴスペル・テイストは感じなかったのでしょうか? 「witness」なんか教会の説教によく登場する言葉でしょうに。〈Imagine〉の最後のほうに出てくる「brother」で托鉢修道会を連想するほど敏感な人がこれに気づかないのには、何か深いわけがあるに違いありません。

(p.221)「悪魔を憐れむ歌」は、決してミックが悪魔主義者であることを証明するものではない。ローリング・ストーンズの音楽世界には、キリスト教の信仰はほとんど影響していないのである。

 アンチ・キリストの悪魔主義も、キリストが存在してこその「アンチ」なので、キリスト教的世界観の中に含まれるものだという考え方は、私の粗末な脳味噌でも理解できます。ミックの悪魔主義云々に関しても、私も、それがガチなものではなくて、アンチ・エスタブリッシュメントなイメージ戦略の一環としてちょっと取り入れただけの「なんちゃって」だと思います。しかし、悪魔主義が存在しないのでキリスト教信仰の影響も殆どなし、という論理展開には反対です。
 「信仰」の解釈にもよりますし、どのくらいの現象があったら「影響」を受けたことになるのかも、はっきりとした基準はありませんが(島田本全体に違和感を覚えるのは、島田本人の「基準」が首尾一貫してないような書き方になってる点です)、私の個人的意見としては、「影響していない」ではなくて、「ブルースやR&B、ソウルをたくさんカバーしたことから、それらの音楽に含まれていたキリスト教的な要素が、ローリング・ストーンズの音楽の中にもある程度は入り込んでいる」という言い方のほうが正確だと思います。〈Salt Of The Earth〉〈You Can't Always Get What You Want〉〈Gimme Shelter〉〈Shine A Light〉を聞いて、サウンドにゴスペル風を感じない人はたぶんいないでしょう。《Exile On Main St.》の〈I Just Wanna See His Face〉は「イエスのことなんて話したくねえ。ただ顔が見てえよ」と、イエス・キリストについて歌った曲です。ほのめかしじゃなくてモロなので、歌詞を調べればすぐにわかります。

   

 《Some Girls》の〈Far Away Eyes〉は、その冒頭で、カーラジオでゴスペル音楽と説教を聞きながら田舎の道をドライブしてる様子を歌っています(隠れた名曲だよな、これ)。私の耳には、キリスト教の影響がストーンズの音楽に入り込んでるようにしか聞こえません。



(p.242)(テレビ、ネット、CDなどのある現代)に比べれば…一九五〇年代を考えてみれば、若者たちが音楽を聴く主たる方法としてはラジオしかなかった。

 ラジオを過小評価しちゃいけない。アメリカには昔から日本の何倍ものラジオ局があって、レコードなんか買わなくても、何の気なくラジオを聞いてるだけで、ものすごい量の音楽に接してることになります。ロビー・ロバートソンはアメリカのラジオ局を聞いてブルースに親しんでたと言ってます。

(p.252)(日本の現状についての話の中で)英語の歌では、その意味が取りにくいのである。しかも、訳詞を行う際に、翻訳家が、歌の中に「神」が出てきたとしても、それを省いてしまう場合がある。ロックの歌詞に神が頻繁に登場しているにもかかわらず、それに気づかないという事態が生まれている。

 本当? これは具体例を知りたいです。びっくりした時の「オー・マイ・ガーッ」や「ジーザス!」はいちいち「おぉ、我が神よ」「イエス様!」と直訳してたら美的な点でかえって変だと思いますが、それとは違うレベルのところで「神」をしっかり訳してないというのでしょうか? 皆さんからの情報を求む。よろしくお願いします。

(p.255)ロックの宗教性を考えることは、ロックの本質に迫ることになる。また、アメリカの社会の姿をこれまでとは違ったものとしてとらえることを可能にしてくれる。その点では、ロックの宗教性、そのキリスト教とのかかわりを理解することはきわめて重要な意味を持っているのである。

 これが『神を信じなかった』本の締めくくりなのですが、私も100%そう思います。音楽の数千年の歴史を「剽窃」という観点で綴ったアメコミ『THEFT』でも、レイ・チャールズが神聖なゴスペルと世俗的で猥雑なブルースを合体させたことが、ロックの誕生において重要な役割を果たしたと指摘しています。

   

 島田は、ストーンズを語った後、エリック・クラプトンに関して、《Journeyman》《Pilgrim》あたりからキリスト教的信仰を歌った曲が増えたことや、自伝中でキリスト体験を綴っていることを指摘し、滅茶苦茶な生活→体を壊す、親しい人を失う等の人生の転機に反省→宗教に目覚める、という道筋をたどるミュージシャンが多い→もともとキリスト教とロックは結びつきやすいものだった、という具合に論を展開し、上記の言葉で本全体を締めくくっています。
 しかし、これが最終的な結論として言いたいことだとすると、プレスリーや改宗ディラン、クラプトンは例として適していますが、島田自身が殆ど宗教性を見出せていないビートルズやローリング・ストーンズにたくさんのページを割いてるのは、ゴールに行き着く上で迷走にしか見えません。キリスト教3部作を発表する以前のディランにもキリスト教の影響があり、ビートルズもストーンズもキリストの教の影響を受けている点が島田には殆ど見えてない(少なくとも、影響を積極的に認めようとするのとは反対のベクトルで語ってる)ので、2重の意味で迷走です。
 ということで、最後にひとこと。この本のタイトルは『ロックとキリスト教』で、サブタイトルが「ジョン・レノンは、なぜ、神を信じなかったのか」のほうが、内容からするとフェアじゃないでしょうか。島田先生、もっといい本書いてください。
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2018年02月07日

《All-Meat Music》とウィリアム・スタウト・インタビュー

 西新宿7丁目もあれからかなり変わってしまい、今やそこを海賊盤のメッカと言う人はいません。一時期、大学受験予備校の町にもなりかけましたが、社会全体が少子化傾向ゆえ、もともと斜陽産業なので撤退が相次ぎ、今いちばんたくさんあるのはラーメン屋と美容院でしょうか。かつてKINNIEだったところは演歌と落語の専門店になっています。試しに店の中に入ってみたところ、ロックの海賊盤は本当に1枚もありませんでした。その時、私の脳内で鳴ってた曲は〈The Times They Are A-Changin'〉です。
 昔、怪しいレコード屋に行くと、怪しいイラストのジャケットの海賊盤をよく見かけましたが(私はTMoQの次のTOASTEDやPHOENIX以降の、ちゃんとアーティストの写真が印刷されてる豪華カラー・ジャケット世代なので、イラスト・ジャケは殆ど買いませんでした)、今回紹介するのは、そのイラストを描いてた人の話です。




《All-Meat Music》とウィリアム・スタウト・インタビュー

聞き手:ジェイムズ・スタッフォード



 1973年1月18日にロサンゼルスの有名なイベント会場、フォーラムで開催されたコンサートには、チーチ&チョン、サンタナ、そして、ローリング・ストーンズが登場した。奇妙な組み合わせに感じるかもしれないが、この3組には1つの理由があった。12月23日にニカラグアで大地震が発生し、死者が6千人、家を失った人が25万人に達していたので、ストーンズとサンタナ、そしてコメディー・デュオは救済活動の手助けをしたいと考えたのだ。
 ミック・ジャガーとニカラグア出身の妻、ビアンカは、滅茶苦茶に破壊された国に飛んで、ビアンカの母親を発見した。彼女は命に別状はなかったものの、家を失っていた。ミックとビアンカは、震災後、多数の死体が放置状態になっているのも目の当たりにした。サンタナは、ティンバレス・プレイヤーのチェピート・アレアスがニカラグアの出身ということが、被災者のために救援資金を集めたいという動機になった。チーチ&チョンに関しては、もともと、自分たちで「ラティーノ・フォー・ラティーノ」というチャリティーを行なう計画を立てていたので、このイベントには適任だった。チャリティー・コンサートは実際に行なわれ、被災者のために35万ドルを集めた。
 この2枚組アルバムはブートレッグの名盤の1つである。収録されている音楽もさることながら、ジャケット・アートも秀逸だからだ。これはウィリアム・スタウトという人物の作品なのだが、彼は驚くべき経歴を持っている。プレイボーイ誌で連載されていた『Little Annie Fanny』を覚えているだろうか? スタウトはそのスタッフの一員だったのだ。『Heavy Metal』の読者だったのなら、スタウトの作品に親しんでいるはずだ。カルト映画の名作『Return of the Living Dead』(邦題は『バタリアン』)は好き? スタウトはこの作品のプロダクション・デザイナーだったのだ。リストはこの後も延々と続く。この人物は気の遠くなるほどたくさんの作品を世に出している。
 アルバム・ジャケットのアートワークというと、ウィリアム・スタウトにとって、全てのきっかけがまさにそれだった。そして、Trademark Of Qualityレーベルがリリースしたレコード中で《All-Meat Music》が最重要アルバムだと私が思うのも、まさにこのアートワークがあるからなのだ。スタウト氏は慈悲深いことに、鉛筆を置いて、このアルバム・ジャケットについて、ブートレッグという陰の世界で働いていた時代について、現在携わっているプロジェクトについて語ってくれた。

rolling-stones-nicaraguan-back.jpg


ウィリアム・スタウトが描いたブートレッグのジャケットはどのくらいあるのですか?

 42枚のアルバム・ジャケットを作ったよ。32枚はTrademark of Quality(以後TMoQ)用に、9枚はTMoQから派生したいろんな会社用に、それから1枚はLong Live the Smoking Pig用にだ(レッド・ツェッペリンの《Burn Like a Candle》)。

1970年代初頭、ブートレッガーのために働くのは普通のイラストの仕事ではなかったでしょう。どのような経緯でTMoQと手を組むことになったのですか?

 ハリウッドにあったレコード・パラダイスは、ロサンゼルスでは数少ない、輸入盤やブートレッグLPを置いてる店の1つだった。オレは少し前にいいコンサートを見たんで(記憶ではツェッペリン)、そのブートレッグLPを買うのを楽しみにしてたんだよ。何人かがショウを録音してるのを目にしてたんで、きっとブートレッグが出ると思ってたんだ。「L」のコーナーを覗いたら、それがあったんで、掴んで持ち上げた。「オー、マーン」 オレは大きな声で言った。「このジャケット、全然イケてねえぜ。誰かオレにジャケット描かせてくれよ」
 すると、ある男がオレの肩を叩き、ささやいた。「お前、ブートレッグのレコード・ジャケットを作りたいのか?」
「ああ!」
「今週の金曜の晩、8時、セルマとラス・パルマスの角にいろ」(訳者注:このあたりだ) そして、男は少し間を置いて言った。「ひとりでだ」
 オレは了承した。
 当時、セルマとラス・パルマスの交わるところは、ハリウッド界隈の中でもいかがわしい場所だった。8時ぴったりに、昔の'40年代の黒のクーペ(ウィンドウはスモークガラス)が角に寄って止まった。助手席側の窓が少し開くと、そこから1枚の紙切れが出てきたんで、オレはそれを受け取って読んだ。それには「Winter Tour 1973」って書いてあり、ローリング・ストーンズの曲のリストもあった。
 車の中の声が言った。「来週の金曜日、時間は同じだ」 窓が上がって閉まった。しかし、再び少し下がった。「ひとりでだ」
 オレは自分のアパートメントに戻って、ジャケットの作業に取りかかった。タイトルを《All-Meat Music》に変えて、ロバート・クラムが担当したビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーの《Cheap Thrills》のジャケットへのトリビュートみたいなデザインで、1つ1つの曲に、ストーンズの5人のメンバーをひとりずつフィーチャーしたイラストを添えた。
 次の金曜、オレは約束の時間にセルマ&ラス・パルマスの角に行った。ひとりで。同じクーペがやって来て止まった。助手席側の窓がちょっと開いたんで、その隙間にジャケットを入れた。手紙を投函するように。すると、お返しに50ドル札が出てきた。その車はまるで変てこりんなATMのようだった。そして、クーペは走り去った。
 ローリング・ストーンズの《Rolling Stones Winter Tour》(またの名は《All-Meat Music》)はコンサートの2週間後に出た。ジャケットのおかげで目立ってたね。とてもよく売れた。TMoQはさらにジャケットを注文してきた。
 やっと、ブートレッガーたちからの信頼を得て、オレは連中と顔を合わせて仕事をするようになった。やつらの本名は知らなかったけどね。オレたちは定期的にレコード・パラダイスで会った。全員、店のオーナーのロジャー&オリーとは友達だった。ブラブラするのにステキな場所だったなあ。

TMoQのブートレッグは大人気でしたが、あくまでアンダーグラウンドなレベルでの話です。ブートレッグの持つアウトロー的なイメージは、あなたのキャリアにとってプラスになりましたか、妨げになりましたか? それとも、そのどちらでもなかったのでしょうか?

 ブートレッグのジャケットを描いてた頃は、地元でちょっと有名になったこと以外は、自分のキャリアに何の影響もなかったよ。後でわかったんだけど、イギリスではもっとずっと有名になってたらしいね。何年も経った後、ウォルト・ディズニー・イマジニアリング(WDI)で働いてるティム・オノスコから電話が来て、ウォルト・ディズニー・ワールド用の大プロジェクトのチーフ・デザイナーとして、フルタイムで働いてくれないかって誘われたんだ。オレのことやオレの作品をどうやって知ったのか質問したら、主にブートレッグ・レコードのジャケットからだって言ってた。数年後には、ジミー・ペイジのカメラマン、ロス・ハルフィンからも連絡があった。TMoQのジャケットになった原画を購入したいって。ロスからこのオファーが来たのは丁度いいタイミングだった。本格的な美術の世界でキャリアを積もうとし始めてたところで、絵を描き続けるための資金が必要だったんだよ。オレはロスにTMoQ用の原画の殆どを売った。ロスに買ってもらったジャケット画もあれば、買ってもらえなかったものもある。
 ブートレッグのジャケットを担当してたことで、トラブったことはないね。ジャケット用のイラストを作ることは違法じゃなかったしさ。大手のレコード会社が発注する正規の仕事で、自分が選考の対象になってるって時には、その件は絶対に口には出さなかったけどね。

rolling-stone-nicaraguan-front.jpg


先ほど、アルバムのタイトルを《Winter Tour 1973》から《All-Meat Music》に変更したとおっしゃってましたが、その件についてもう少し詳しく教えてください。

 ブートレッガーたちにとってはかなり不本意だったようなんだけど、オレはいつも連中のLPのタイトルを変えてしまった。笑えるやつが好きだからさ。《Winter Tour 1973》じゃおかしくないだろ。《All-Meat Music》はユーモラスだ。このタイトルならローリング・ストーンズのイメージにぴったりだ。

今日、あなたがジャケットを描いたアルバムは、TMoQがリリースした全アルバムの中でベスト作と評価されていますが、当時はそれに対してどんな反応がありましたか?

 オレが描いたジャケットに他のブートレッガー連中はかなり動揺してたよ。ジャケットのおかげでTMoQのレコードは他のブートレッグよりもかなり目立ってたからね。そいつらもオレにジャケットを作らせようとしてたけど、オレはいくつか理由があって、そういうことをやるのはTMoQとだけって決めてたんだ。TMoQの連中とはとても仲が良かった。他のブートレッガーはいかがわしくて、倫理面でも問題があるようだった。Trademark of Quality(高品質のトレードマーク)っていう名前も気に入ってたし、連中は看板に偽りなしだったと思う。オレも、リリースを重ねるごとに、こいつらの出すものがもっとプロフェッショナルなものになるよう努力した。TMoQのファン層に向けて、ちょっと遊んでもみた。自分の頭の中では、マニアックなファンやコレクター、音楽と芸術の愛好家たちに認められるようなジャケットやレコードを作ってるつもりだったんだ。
 どのジャケットにも必ずブタを登場させてたせいで、変な副産物も生まれちゃったんだよな。TMoQのロゴは辞典に載ってるようなブタのイラストだっただろ。それと、オレが破壊分子的なユーモアのセンスの持ち主だってことが、どのジャケットにもブタを登場させていた理由さ。でも、ロックンロールが超シリアスなものと受け取られるようになったおかげで、レコード・ファンの間では、オレがブタとセックスをしてるっていう噂が広まったんだよな。

ウィリアム・スタウトの世界における最新情報を教えてください。

 自分のキャリアを集大成した大型本『Fantastic Worlds of William Stout』がInsight Editions社から7月に出ることになってるんだ。音楽関係のアートに関するヴィジュアル満載の章もあるよ。最もリクエストの多い、オレの音楽関係のアート全てに関する本も書き終えたところだ。現在、画像をまとめてるところなんだ。以前に出した『Legends of the Blues』は2刷に至ってるんだけど、その第2巻『Legends of the British Blues』の作業も佳境に入ってる。第3巻は『Modern Legends of the Blues』になる予定だ。ブルース本それぞれには、肖像画が100点と、同じ数の伝記が載ってる。損得勘定なしで、好きでやってることさ。オレのウェブサイトを見に来てくれ。
 最近、作ったジャケットはバディー・ガイ、アルバート・キング、ジュニア・ウェルズ、キャット(ユスフ)・スティーヴンス、トッド・ラングレン、ザ・ナイス、エマーソン・レイク&パーマー、イギー・ポップの新リリース、それから、アライヴ・ナチュラル・サウンド・レコードの素晴らしいミュージシャンのためにLPジャケットをいくつか担当したよ。

The original article “From The Stacks: Rolling Stones, ‘All-Meat Music’ (and a William Stout Interview!)” by James Stafford
https://wimwords.com/2018/02/02/from-the-stacks-rolling-stones-all-meat-music-and-a-william-stout-interview/
Reprinted by permission


   



スタウト本人のウェブページのほうにも詳しい話が載ってます
http://www.williamstout.com/news/journal/?p=2591
http://www.williamstout.com/news/journal/?p=2599
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2017年06月11日

前座を含むオルタモントの音源

 昨年秋にオルタモントに関する新刊が出た際に、こんな記事を書きましたが、流通音源(SBD+AUD)をツギハギしてこの日の様子をできる限り再現したものを今日youtubeで発見しました。こういうブートレッグが出たのでしょうか?(6/11追記:7年前くらいに出ているそうです)



1. PA Sound Check with Moog - 0:00
2. Opening Announcement - 1:13
SANTANA
3. Savor - 2:25
4. Jingo - 5:59
5. Evil Ways - 9:39
JEFFERSON AIRPLANE
6. Announcement - 10:30
7. The Other Side Of This Life - 10:55
8. 3/5th Of A Mile - 16:32
9. Fat Angel - 22:16
10. White Rabbit - 26:03
11. Free Bird - 28:19
12. Ballad Of You & Me & Pooneil - 29:46
FLYING BURRITO BROTHERS
13. Six Days On The Road - 40:07
14. High Fashion Queen - 43:01
15. Cody Cody - 44:48
16. Lazy Day - 47:41
CROSBY, STILLS, NASH & YOUNG
17. Black Queen - 51:20
18. Pre-Road Downs - 56:18
19. Long Time Gone - 58:58
20. Down By The River - 1:03:48
21. Announcement For The Rolling Stones - 1:05:57
THE ROLLING STONES
22. Introduction - 1:06:19
23. Jumping Jack Flash - 1:07:49
24. Carol - 1:12:06
25. Sympathy For The Devil - 1:15:57
26. The Sun Is Shining - 1:28:57
27. Stray Cat Blues - 1:33:36
28. Love In Vain - 1:37:30
29. Under My Thumb - 1:43:11
30. Brown Sugar - 1:51:53
31. Midnight Rambler - 1:55:19
32. Live With Me - 2:06:11
33. Gimme Shelter - 2:09:34
34. Little Queenie - 2:14:04
35. (I Can't Get No) Satisfaction - 2:18:38
36. Honky Tonk Women - 2:26:04
37. Street Fighting Man - 2:30:03

BONUS TRACKS
38. MC by The Taper on Radio - 2:34:18
39. Introduction - 2:34:53
40. Jumping Jack Flash - 2:36:31
41. Carol - 2:40:48
42. MC by The Taper on Radio - 2:44:36
43. Sympathy For The Devil - 2:44:57
44. Evil Ways - 2:55:15
45. Jumping Jack Flash - 2:57:38
46. Carol - 2:57:58
47. Mick Jagger Live MC - 2:59:50
48. Sympathy For The Devil - 3:01:04

   
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