この記事は
DAILY KOSというサイトに2009年にアップされたものですが、つい最近発見して面白いと思ったので紹介します。ジョーン・バエズのフットワークの軽さ、人間としての器の大きさには驚きです。この記事を書いたウェイダウンサウスという人物は、恐らくジョーン・バエズのマネージャーか、それに近い仕事をしているスタッフだと思います。
自分を「赤子殺し」と誹謗中傷する看板にサインするジョーン・バエズ文:ウェイダウンサウス
あなただったらどうする? もし、自分を名指しして「赤子を殺し、アメリカ兵殺害を促した」と非難する看板を掲げた人達と対面したら。普通の人だったらキレるかも。もしくは、最初は冷静に議論を始めたつもりでも、結局頭に血が昇って、しまいには、最近、各地のタウン・ホールの前でよく起きている怒鳴り合いを始めるのがオチだろう。
しかし、歌手生活50周年を迎える今も、非暴力と他者への思いやりという理想を揺るぐことなく掲げながら音楽活動を行ない、我々全員を鼓舞し続けているジョーン・バエズの場合、そのどちらでもないのだ。
昨晩、アイダホ・フォールズでは、ヴェトナム戦争に従軍した4人の元兵士がジョーン・バエズのコンサートに抗議していた。彼等の掲げる看板には「ジョーン・バエズ----赤子を殺すのは兵士ではなくリベラル」「ヴェトナム戦争時、ジョーン・バエズは我々の敵に慰安と支援を与え、アメリカ兵殺害を促した!」と書いてあった。
開演1時間前に、コンサートに抗議している人達がいることを知らされたジョーンは、すぐさまストリートに出て行って彼等に言葉をかけた。
ジョーンが姿を見せた際に、彼等が言った最初の言葉のひとつが、「公民権運動や女性の権利についてあなたがしたことは、我々は評価していますよ」だった。
彼等はまず、この点ははっきりさせておきたかったようだ。
ジョーンは彼等の意見表明をじっくり聞いた。コンサートに抗議する退役軍人達が言いたかったのは、まず、ヴェトナムから帰還した時、反戦活動家によって騙された気分にさせられた、ということだった。ジョーンは、昔も今も皆さんの味方です、と言った。ジョーンは自分の立ち位置と、元軍人全員を支援していることを説明するが、彼等の反応は複雑だった。
この時、ジョーンのツアー・グッズの販売を担当しているジム・スチュワートが話の輪に加わってきた。ジムにはヴェトナム戦争時に空軍大尉だったという経歴がある。彼はまた、世界一心のやさしい人物でもある。ジムの口から語られるヴェトナム体験は、決して軽々しいものではない。彼はジョーンの腕を取って、4人の男に向かって言う。「オレはこのレディーを100%支持するね。ジョーンは当時、正しいことをやっていた。オレ達が帰国した時には、味方になってくれた。利益の100%が退役軍人支援のチャリティーに行く曲もレコーディングした」
話を聞くジム:
議論に加わるジム:
信じられないことに、4人の抗議人のひとりが、ジムを非難するように問いただし始めた。彼はジムに所属部隊や配属地の詳細を話してみろと言った。まるで、お前の軍歴なんてでっち上げだろとでも言わんばかりの勢いでだ。ジムがこんなふうに疑われるなんて、この記事を書きながら思い出しただけでも目から悔し涙が出て来る。この抗議人達がそこにいたのは、理屈としては、元アメリカ兵が冷遇されてることについて抗議するためだったが、それなのに、彼等は意見が違うからといってひとりの退役軍人を見下し、疑ってかかったである。
ジムは彼等の術中に陥ってしまい、埒が明かないと判断して引き下がってしまった。ジョーンはジムに味方して言った。「彼の話は本当よ。でも、これ以上説明してもしょうがないと思っちゃったんじゃないかしら」
皮肉なことに、コンサートを見に来た男性がこの場にやって来て、これまでのやりとりとはあまり関係なく、言葉を差し挟んだ。「連中がヴェトナムでやったことは間違ってたって分からない奴は、頭が鈍いんだよ」 この発言を聞いた時のジムの顔ったら。彼は文字通り1分もしないうちに、両方の側から非難されたのだ。
この時点で、私は「赤子を殺すのは兵士ではなくリベラル」という看板を持っている男と話を始めた。彼が「オレは赤子はひとりも殺しとらんよ。誰かがやったから全員連帯責任だなんておかしいね」と言うので、私は彼に訊いてみた。連帯責任はおかしいと言っておきながら、ジョーン・バエズの名前を記して、彼女が赤子を殺したと暗に言っているような看板を掲げることは、どうして正しいことなのかと。すると、男はこう答えた。「ある種のアナロジーさ。お前さんにはわからないだろうがな」
う〜ん…確かにわからない。
「看板を破壊してやろうか、でも、そんなことしたら、憲法で保障されているあいつの言論の自由を踏みにじることになるよな」とジムが言ったので、ジョーンと私は、この退役軍人がジョーンとしているのはあくまで会話であるという点、そして、ジョーンが赤子殺しではないという点を考えると、我々が問題にしているのは彼の権利ではなく、礼儀作法のほうだ、と答えた。この抗議人が一番訴えたいのは、連帯責任という考えは間違っているということなので、その主張は我々にも理解出来る。しかし、彼はこうも答えた。「オレは人工中絶に反対だし、誇りを持ってこの看板を掲げている」 彼はこう言うと、看板をさらに高く掲げた。
我々がこんな議論をしている間、抗議人のひとりが「赤子を殺すのは兵隊じゃない」と何度も繰り返すので、私は言った。「こんな十把一からげな発言なんて出来ないくらい、戦争ではたくさん悲惨なことが起こります。特に、空から爆弾を落とす時にはね。最終的に行き着く結論は「戦争は地獄である」ということでしょう」
私は続けた。「私よりあなたがたのほうがそのことをよくご存じのはずです」と。彼等はこの発言に驚いていた。「向こう側」の人間が彼等の体験を理解していることにショックを受けたようだった。少しの間、彼等は言葉を失っていた。
ジョーンが話の腰を折るようなことをせず、彼等の発言を最後までじっと聞いていたことが功を奏し、この頃になると、彼等の怒りも収まり始めた。すると、予測不可能なタイミングで、彼等はジョーンに看板にサインしてくれと頼んできたではないか。ジョーンは「酷いこと」が書いてある表ではなく、裏にならサインしましょうと答えた。素晴らしいことに、「赤子殺し」の看板を持っていた男は、サインしてくれたら、彼女の名前を看板から消しましょうと言った。
ジョーンは全員にサインした後、ひとりひとりに自伝の本をプレゼントした。ショウのチケットもあげようとしたが、彼等は受け取らなかった。ジョーンは「アメリカ兵の殺害を促した」と書かれたポスターの裏にもサインした。「皆さんの幸せを願って、ジョーン・バエズ」と。
劇場内に戻ると、ジョーンは泣き崩れてしまった。「あんな人達に立ち向かうなんて、大した度胸の持ち主だ」と私は言った。しかし、ジョーンが涙を流してるのは、自分がああいう扱いを受けたからではなく、ジム・スチュワートがあんなふうに味方してくれたからだった。ジョーンは言った。「ジムの声、震えてたでしょ。あれこそ勇気ってものよ…」
ジョーンの言う通りだった。ヴェトナム戦争の泥沼を思い出すことは、ジムにとって軽々しく出来ることではない。しかも、彼はジョーンを擁護するために、別の元軍人から自分の兵役を中傷されるのに耐えたていのだ。
その後、コンサートでは、ジョーンはある曲を抗議の男達に捧げて、こう言った。「話を聞いてもらいたかったんだと思うの。みんな、自分の話を聞いてもらいたいでしょ。今晩、新しい友人が4人出来たような気がするわ」
ジョーンはいつも通りに平和主義の王道を進んだ。看板にかかれていたのは私の名前ではなかったのに、私は怒りに負けてしまったのだが、ジョーンは全く違った。暴徒や暴力的な右翼の抗議人達に対処する時には、ジョーン・バエズが50年間のキャリアにおいて、常に他者への思いやり忘れず、非暴力を貫き通していることを思い出すと役に立つだろう。
ガンジーとマーティン・ルーサー・キングが彼女のヒーローなのだが、私の中では、ジョーン・バエズは彼らと一緒に、時間を超越して、高尚な理念に向かう王道を歩む行進の先頭を行く存在なのだ。
Copyrighted article "
Joan Baez diffuses right wing protest at Idaho concert" by
Waydownsouthhttp://m.dailykos.com/story/2009/08/12/765667/-Joan-Baez-diffuses-right-wing-protest-at-Idaho-concert?detail=emailReprinted by permission